人間の幸不幸を凝視する物語文学

源氏物語


| 日本文化の至宝 | 人間の幸不幸 | 光源氏の誕生 | 桐壷更衣 | 翻弄される少年 | 藤壺の宮 |
| 葵の上 | 空蝉 | 六条御息所 | 末摘花 | 過ちと拒絶 | 紫の上 | 苦境から旅へ | 須磨 |
| 明石 | 苦悩と歓喜 | 帰京 | 六条院 | 春の町 | 夏の町 | 秋の町 | 冬の町 | ゼウス |
| 自己の確立 | 楽しみ尽きて | 反転する人生 | 色あせる栄華 | 御法 | 傷ついた女神 |
|  | 貴種流離譚 | 紫式部の背景 | 自らの人生を歩む | 21世紀を生きる私たち | 参考情報 |

HOME


日本文化の至宝
源氏物語

源氏物語の作者 「紫式部図」 土佐光起 江戸時代 石山寺


平安時代中期に書かれたといわれる「源氏物語」。



「桐壷(きりつぼ)巻」から「夢浮橋(ゆめのうきはし)」までの五十四帖(54巻)から成り、

光源氏の誕生(桐壷巻)から少青年期・壮年期を経て、

五十数歳にして出家を前にした四十一帖・幻巻に至る「正編」と

光源氏の子孫の物語である「匂宮・紅梅・竹河」の三帖、および

「宇治十帖」と総称される計十三帖に大きく分かれています。



「源氏物語」は、それ以前の日本・中国・天竺(てんじく:旧インド)を起源とする

膨大な文学・宗教・歴史が反映され結晶した日本文化の源流にあたるそう。



もし「源氏物語」が紫式部によって書かれていなかったとしたら、

日本の文学史や日本人の美意識の伝統はまるで異なるものに

なっていただろうといわれます。



今日に至るまで多くの文化人は、「源氏物語」を自分の生きる時代に

合わせて読み替え、新しい文化を切り開いてきたそうです。



○破壊と再生|日本型うつ病社会に別れを告げて

○光は闇の中で輝く|世代とジェンダーを越えて発展する

○日本の成り立ちを語る雅楽|日本で最も古い古典音楽


トップに戻る



人間の幸不幸を凝視する
物語文学

左手に如意宝珠を持つ「吉祥天像」 国宝 奈良薬師寺


吉祥天(きちじょうてん)が左手に持つ「如意宝珠(にょいほうじゅ)」は、

欲するがままに種々の宝物を創り出すといわれ、

これを手に入れると、多くの財宝が得られるだけでなく、

毒にもおかされず、火にも焼かれないといいます。



「如意(にょい)」には、所有者の願をすべて叶えるという意味があり、

西遊記の中で孫悟空が持ち、自由自在に伸び縮みする「如意棒」にも見られます。



「物語」では、目に見えない人間の運命を表現するために「如意宝」が用いられ、

獲得すれば運命が好転し、喪失すれば暗転するという、

幸福と不幸の転換点が「如意宝」を持っているかいないかで見えてきます。



具体的には、「美貌」や「才能」、「恋人」や「有力人物」、「財産」、

「地位」、「名声」、「子宝」、「健康」、「若さ」などで表現されているよう。



如意宝は、成熟と堕落を繰り返し、

刻々と変化する人間の「心のシンボル」のようでもあります。



○いにしえから今を生きる私たちへの伝言|千三百年の時空を超える「奈良」


トップに戻る



光る君
光源氏の誕生



※源氏物語の書き出し 一帖 桐壷


  「いづれの御時(おおんとき)にか、 女御・更衣(にょうご・こうい)

  あまた侍ひ給ひ(さぶらいたまい)けるなかに、

  いとやむごとなき際(きわ)にはあらぬが、すぐれて時めき給ふ、ありけり。」



  いつの帝の御世であったか、女御や更衣が

  大勢お仕えなさっていた中に、

  たいして高貴な身分ではない方で、きわだって帝の寵愛を

  集めていらっしゃる人があった。





桐壷帝(きりつぼてい)の寵愛を一身に受ける女性、桐壷更衣(きりつぼのこうい)。

周囲の女性からひどく妬まれる中、「清らかなる玉の男皇子」として

後に世間から「光る君」と呼ばれる光源氏を生みます。



※女御・更衣(にょうご・こうい)

 ・天皇の寝所に仕えた女官の名称。
 ・天皇の正妻(皇后)は「中宮(ちゅうぐう)」。
 ・「女御」は「中宮」の下で「更衣」より上の位。
 ・「更衣」は元々は天皇の衣替えを奉仕する官位。
 ・女性の官位は、父親など男性の官位に関係し決まったそう。


トップに戻る



嫉妬といじめ
病気がちとなり命果てる桐壷更衣

桐(きり)


周囲に妬まれ、いじめられることが起因してか、

桐壷更衣(きりつぼのこうい)は病気がちになってゆきます。



その思い悩む姿をみて益々愛情を注ぐ桐壷帝。

そのことがより周囲の反感をかってしまい、遂には亡くなってしまいます。




※源氏物語 一帖 桐壷



  「はじめより我はと思ひ上がり給へる御方がた、

  めざましきものにおとしめ嫉み(そねみ)給ふ。」



  宮中にお勤めした初めから、自分こそはと気位の高い女御の方々は、

  分不相応な者だと(桐壷を)見くだしたり嫉(そね)んだりなさっている。





  「同じほど、それより下臈(げろう)の更衣たちは、 まして安からず。

  朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふ積もりにやありけむ、

  いと篤しくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、

  いよいよあかずあはれなるものに思ほして、

  人のそしりをもえ憚らせ(はばからせ)給はず、

  世のためしにもなりぬべき御もてなしなり。」



  同じ身分やその方より低い身分の更衣たちは、女御たち以上に心穏やかではない。

  朝夕のお仕えにつけても、周囲に不快な思いをさせて、

  嫉妬を受けることが積もり積もったせいであろうか、

  (桐壷更衣は)ひどく病気がちになってしまい、どこか心細げにして

  里(実家)に下がっていることが多いのを、帝はますますこの上なく不憫

  なことだとお思いになられて、誰の非難をもお構いなさることがなく、

  後世の語り草になりそうなほどの扱いようである。




  (中略)



  「御局(みつぼね)は桐壺なり。

  あまたの御方がたを過ぎさせ給ひて、ひまなき御前渡りに、

  人の御心を尽くし給ふも、げにことわりと見えたり。」



  住んでいる御殿は桐壺である。

  大勢のお妃方の前を桐壷帝は素通りあそばされて、ひっきりない帝のお越しに、

  お妃方が思い悩んでおられるのも、なるほどもっともなことである。





  「参う上り給ふにも、あまりうちしきる折々は、

  打橋、渡殿(わたどの)のここかしこの道に、あやしきわざをしつつ、

  御送り迎への人の衣の裾、堪へがたく、まさなき事もあり。」



  参上なさる場合にも、あまりにその更衣ばかりが度重なる時には、

  打橋や渡殿のあちらこちらの通路に、悪意のある仕掛けをして、

  送り迎えする女房の着物の裾がひっかかって傷んでしまうことがある。





  「またある時には、え避らぬ馬道(めどう)の戸を鎖(さ)しこめ、

  こなたかなた心を合はせて、 はしたなめわづらはせ給ふ時も多かり。」



  またある時には、どうしても通らなければならない馬道の戸を締めて

  通れないようにし、こちら側とあちら側とで示し合わせて、

  どうにもならないようにして更衣を困らせることも多かった。




○妬みを抱きやすい日本の環境

○自身の行為が問題だと納得していないパワーハラスメント行為者


トップに戻る



世の流れに翻弄される
少年



月日が経って益々美しく成長した光源氏は、優れた才能を発揮します。



父・桐壷帝は、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)との間に産んだ

第一皇子(朱雀帝:すざくてい)の身分を超えさせたいと考えますが、

源氏には後見(うしろみ:Look after)してくれる有力な人もなく、

かえって危険であると考え直します。



源氏の将来を案じ、

高句麗(こうくり:現中国から朝鮮半島にかけてあった国)

から来ていた人相を見る男に引き合わせたところ、

「この若君は天上の位に昇る顔相だが、そうなると国が乱れてしまう。

国家の柱石となり、国政を補佐する役目の顔相だ」と助言されます。



世間の人から皇太子に取って代わろうとする疑いを持たれる恐れも強く、

元服後(成人後)に源姓を賜わらせて、臣下にするのがこの子のために

良いと考えます。



※源氏物語 一帖 桐壷



○序列なしには暮らせない日本の日常

○「ウチ」と「ソト」を強く意識する社会構造

○日本型うつ病社会の構造|年功序列・終身雇用・運命共同体


トップに戻る



亡き母に生き写しの藤壷の宮
真実の自己の回復



いまだに亡き「桐壷更衣」を忘れられない桐壷帝。

先帝の四女である「藤壺の宮」が桐壷更衣によく似ているとの話を聞き、

後宮に迎え入れます。



桐壷帝は源氏を手元から離さなかったため、藤壷の宮とも自然と親しくなり、

亡き母のゆかりの人だと聞いたせいもあってか、より睦まじくなっていきます。



源氏は藤壺の宮と会っている間は失われた自分を取り戻し、

真実の自己を回復することができたよう。



※源氏物語 一帖 桐壷


トップに戻る



罪の意識を伴いつつ
癒されない渇き

葵科 芙蓉


12歳となり元服(成人)した源氏。

左大臣の娘であり、桐壷帝の妹を母に持つ「葵の上」と結婚し、

強大な権力の後ろ盾を得ることになります。



しかし、葵の上は源氏の4歳年上であり、端正な振る舞いに馴染むことができず、

母がわりに慕った「藤壺の宮」への想いが高まっていきます。



※源氏物語 一帖 桐壷


トップに戻る



自分が自分でない
彷徨する青年



帚木(ははきぎ)は、遠くから見れば箒(ほうき)を立てたように見えますが、

近寄ると見えなくなるという伝説の木だといいます。



光源氏、17歳の夏。

紀伊守の父・伊予介の後妻である空蝉(うつせみ)と結ばれます。



彼女を忘れられない源氏は再び会いにゆきますが、

空蝉は源氏の求愛を拒みます。



○「帚木の心をしらでその原の道にあやなくまどひぬるかな」 光源氏


  近づけば姿が見えなくなるという「園原の帚木」のように、

  私の前から消えるようにいなくなってしまったあなたを捜し求めて、

  私はわけもなく迷ってしまいました。




○「数ならぬ伏屋に生ふる名のうさにあるにもあらず消ゆる帚木」 空蝉(うつせみ)


  身分の低い賎しい生まれのわたしゆえに、

  あなたに逢うのが恥ずかしくて姿が消えてゆく私です。




※源氏物語 二帖 帚木〜三帖 空蝉



○ありのままの自分|Here I stand and here I'll stay


トップに戻る


「思い出のマーニー」劇場本予告映像

トップに戻る



生命を育み、生命を枯らす
六条御息所

ギリシヤ神話に登場する大地の女神(グレートマザー)
デメテル


源氏が新たに恋人としたのは、

亡き東宮(とうぐう:皇太子)の后、「六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)」。



しかし、源氏は乳母(めのと)を見舞う先で出会った「夕顔」に執着し、

次第に六条御息所からは足が遠のいてゆきます。

源氏の来訪がなく悶々と苦しむ日々を過ごす六条御息所。



源氏と夕顔はお互いの素性も分からぬまま結ばれますが、

夕顔は美しい女性の「物の気(もののけ)」に襲われ命を落としてしまいます。



※源氏物語 四帖 夕顔



源氏の頼みどころのない態度に悩む六条御息所は、

心が慰められるかと思い賀茂神社の葵祭を前にして行われた

儀式の見物に出かけます。



源氏の正妻で懐妊していた「葵の上」も見物に出かけており、

そこで六条御息所と葵の上の従者の間で見物の場所取り争いが始まり、

六条御息所の車は壊され辱めを受けてしまいます。



その後、葵の上は六条御息所の「物の気(もののけ)」にとりつかれ、

遂には命を落とします。



※源氏物語 九帖 葵




後に源氏が栄華を極める象徴となる六条院は、

六条御息所の屋敷跡に造営されます。



生霊となり死霊となって光源氏の女たちに何度も祟(たた)り続けた六条御息所は、

六条院の守護神であるとともに祟り神の側面を兼ね備え、

春と夏には生命を育み、秋と冬には生命を枯らす

グレートマザー(地母神:じぼしん)のようでもあります。



「物の気(もののけ)」は、鎌倉時代に書かれた「無名草子(むみょうぞうし)」によると、

樹木に宿る精霊の類である木霊(こだま)のことを指し、

スタジオジブリの映画「もののけ姫」にて、命を与え命を奪う「シシ神」とも通じるよう。



○大地に宿る命|移ろい行く時の狭間に力の限り咲く花

○美しくも残酷な処女神 アルテミス

○おとぎ話で語り継がれてきた母性の否定的側面


トップに戻る


もののけ姫 予告編

トップに戻る



醜くも心優しい
末摘花

みにくいアヒルの子 H. C. アンデルセン 角野栄子(文)
(角野栄子さんは「魔女の宅急便」の原作者)


はかなく死別した「夕顔」をわすれることのできない源氏。

そんな時に、故常陸の宮が晩年にもうけた姫君・末摘花(すえつむはな)が

心細く住んでいる噂を耳にします。



「夕顔」と同じように心の安らぎを与えてくれる女性と

めぐり会いたいと願っていた源氏は、頭中将(とうのちゅうじょう)と争ったあげく

末摘花と結ばれますが、座高が高く、鼻が長く伸び、先の方が垂れて

赤く色づいている姿をみて失望します。



※源氏物語 六帖 末摘花





時を経て須磨・明石から京に戻った源氏は、

みる影もなく荒れ果てた末摘花の邸で、故人の遺志を継ぎ邸を守りながら、

源氏を信じて待ちつづけている事を知り感動します。



※源氏物語 十五帖 蓬生(よもぎう)



○歩く姿は百合の花|自然を愛するすべての人へ

○才気と美貌、傲慢で虚栄をつらぬく藤尾の悲劇|虞美人草

○一糸乱れぬ群舞 「白鳥の湖」コール・ド・バレエの魅力


トップに戻る



「過ち」と「拒絶」
反道徳的な子どもの誕生

「悔悛するマグダラのマリア」 グイド・レーニ 1635 ウォルターズ美術館
The Penitent Magdalene Guido Reni (Italian, 1575-1642)


病気を患い実家(三条宮)に戻っていた藤壺。

今が好機と、源氏は藤壷の女房王命婦(おうみょうぶ)をせめたて、

引き合わせてもらいます。



身を慎もうとする藤壷でしたが、源氏をあからさまに遠ざけることもできず、

2度目の過ちを犯し、反道徳的な子どもである「冷泉帝」が誕生します。



その後も、藤壷への想いを断ち切れない源氏ですが、

藤壺は拒み続け出家を決意します。



※源氏物語 五帖 若紫〜十帖 賢木



○彼は死に勝ち甦る、神への感謝・賛美|オラトリオ「メサイア」


トップに戻る



藤壺の面影に通う美少女との出会い
紫の上

五帖「若紫」 土佐光起「源氏物語画帖」 江戸時代


18歳になった光源氏。病を患い療養のために北山(京郊外)を訪れ、

そこで、僧坊(そうぼう:僧侶の住居)に住む尼君と可愛らしい少女を垣間見ます。



源氏が見染めた美少女は、藤壺の兄の娘で、

藤壺の面影に通うこの少女を手許に引き取ろうと心に決めます。




  「人なくて、つれづれなれば、夕暮のいたう 霞みたるに紛れて、

  かの小柴垣のほどに立ち出でたまふ。

  人びとは帰したまひて、 惟光朝臣と覗きたまへば…(中略)」



  相手になる人もいなく所在ない気持ちから、夕暮れのたいそう霞んでいるのに紛れて、

  さっきの小柴垣の付近にお立ちになった。

  共人たちはお帰しになって、惟光朝臣とお供に垣根の内をおのぞきになると…





  「…走り来たる女子、あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、

  いみじく生ひさき見えて、うつくしげなる容貌なり。



  駆けてきた女の子は、大勢見えた子供とは比べものにならず、

  たいそう将来性が見えて、かわいらしげな顔かたちである。





  頬つきいとらうたげにて、 眉のわたりうちけぶり、

  いはけなくかいやりたる額つき、髪ざし、いみじううつくし。

  「ねびゆかむさまゆかしき人かな」と、目とまりたまふ。

   さるは、「 限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似たてまつれるが、

   まもらるるなりけり」と、 思ふにも涙ぞ落つる。



  顔つきがとてもかわいらしげで、眉のあたりがほんのりとして、

  あどけなく掻き上げている額の様子、髪の生え際は、大変にかわいらしい。

  「これから先、どのように成長していくか楽しみな人だ」と、お目がとまりなさる。

  というのも、、「限りなく心を尽くし申し上げている方に、

  とてもよく似ているので、目が引きつけられるのだ」と、思うにつけても涙が落ちる。




※源氏物語 五帖 若紫



○キスによって覚醒する瞬間|ピュグマリオンとガラテア


トップに戻る



苦境に追い詰められ
旅に出る



光源氏21歳。父・桐壷帝は退位し、朱雀帝(すざくてい)の治世となり、

帝の生母・弘徽殿(こきんでん)と外戚・右大臣が欲しいままに

権勢を振るう時代が到来します。



光源氏に対する圧力は日増しに募り、都を離れることを決意します。



※源氏物語 十二帖 須磨


  世の中、いとわづらはしく、はしたなきことのみまされば、

  せめて知らず顔にあり経ても、これよりまさることもや」と思しなりぬ。



  世の中がまことに面白くなく、居心地の悪いことばかり多くなってゆくので、

  努めて平気を装って過ごしているにしても、あるいはこれよりももっと悪い

  事態になるのかもしれない、と源氏の君は考えた。



  (中略)



  よろづのこと、来し方行く末、思ひ続けたまふに、悲しきこといとさまざまなり。

  憂きものと思ひ捨てつる世も、今はと住み離れなむことを思すには、

  いと捨てがたきこと多かるなかにも (中略)



  あれやこれや、今までのこと、これから先のことを考え続けると、

  悲しいことが実に様々である。どうせつまらなくままならぬものと

  見切りをつけておしまいになった世の中であるが、

  いざ捨ててしまうと決心すると、まことにあきらめにくいことが多々ある




○命から生まれた嘆き・希望・美しさ 世界の民族音楽


トップに戻る



少年が大人に脱皮するプロセス
青年期の旅

 


光源氏、26歳となった3月下旬。親しい人に別れを告げて、

須磨(現神戸市須磨区)に向かいます。



しかし、京への郷愁は募るばかりのよう。



  「恋ひわびてなく音にまがふ浦浪はおもふかたより風や吹くらむ」


  都恋しさに堪えかねて泣いている事かとも聞こえる浦浪の音は、

  わたしのことを思ってくれている人のいる都のほうから吹いてくるせいであろうか。




※源氏物語 十二帖 須磨




少年が大人に脱皮するプロセスでもある「青年期の旅」。

他からの強制であれ、自らの決断であれ、「旅に出る」という

人生の関門を通らなければ、人は先へは進めないようです。



旅は、古い自分を捨て去り、新しい自分へと脱皮することを可能にするといいます。



○大田・品川ノスタルジア|東京湾・京浜運河シーカヤック・ツーリング


トップに戻る



嵐に翻弄されて
自分を見出すための試練

 The Shipwreck 1805 Tate Britain
Joseph Mallord William Turner


源氏の郷愁への思いも叶わず、冬が過ぎて春になる頃、

暴風雨に見舞われてしまいます。



風雨は何日も続き、この世の終末かと思う中、

源氏はよろづの神に願いをたてますが、

嵐はいよいよ激しく、落雷により居室の廊下を焼失してしまいます。



嵐が静まって、やっと落ち着いて夢にまどろむ中、

亡き父・桐壷帝が現れ明石を去るように諭されます。



時を同じくして、源氏の噂を聞きつけていた「明石の入道」の迎え船が訪れ、

新たな地、明石へ旅立ちます。



※源氏物語 十二帖 須磨



○死に接する精神的・肉体的試練 通過儀礼

○英国500年の美術に触れるテート・ブリテン


トップに戻る



苦悩と
無上の歓喜



「源氏物語」や「伊勢物語」など物語には、しはしば

笑いやユーモラスな内容が描かれている場面があるといいます。



通常の生活では経験し得ない苦境に置かれ、

はらわたをちぎられるような経験は、

普段感じることのできない、心の底からの歓びが込み上げてくるよう。



古い自分を捨て去り新しい自分へと生まれ変わるために、

人は泣き笑うのだといいます。



○人生の美しい意味を見出す 愛と孤独

○ゼロリスクを求め安心を志向する日本人

○「生きる力」を奏でるクラシック


トップに戻る



光が差し込む
帰京



明石の地に迎えられた源氏は、手厚いもてなしを受け、

やがて入道の娘、明石の君と結ばれます。



二年余の歳月が流れた源氏28歳の秋。

眼病を患っていた朱雀帝は譲位を考え、

源氏を朝廷の後見役とするため京に呼び戻します。



源氏は、明石の君を残して帰京し、権大納言に昇進します。



※源氏物語 十三帖 明石


トップに戻る



自分が自分である歓び
栄華を極める

源氏は「春夏秋冬」という時間をも支配する力を獲得します


須磨・明石への足かけ三年の旅から帰京した源氏。



藤壺との間に生まれた「秘密の子」である冷泉帝が即位し、

実父である源氏は准太上天皇(じゅんたいじょうてんのう)となり、

政治的繁栄の頂点へ登りつめてゆきます。



そして、約2万坪の広大な敷地に、四季になぞられる邸宅・六条院を造営し、

妻や娘たちを住まわせます。



  春の町 … 紫の上、明石の姫君(明石の君の娘)
  夏の町 … 花散里(はなちるさと)、玉鬘(たまかずら)
  秋の町 … 秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)
  冬の町 … 明石の君



源氏は、自らの美貌と才能に加え、

地位・財産・多くの女性、子宝、そして四季という時間をも手に入れ、

比類のない眩さを放つ栄華を極めます。



※源氏物語 十七帖 絵合(えあわせ) 〜 三十三帖 藤裏葉(ふじのうらば)



○経済至上主義の価値観に支えられた高度成長期

○座敷童子に誘われて|遠野の四季


トップに戻る



春の町を彩る

樺桜


春の町に住むのは「紫の上」と「明石の姫君」。



桜と梅を愛し、中でも樺桜のような華麗な女性である紫の上は、

藤壺の姪にあたり、藤壺との愛に苦悩する源氏を癒し、

生涯寄り添いますが、43年の一生を子どもを産むことなく閉じます。



明石の姫君は、明石の君との間にもうけた娘。

三歳の時に紫の上の養女となり育てられます。



○新たな息吹に包まれる桜舞う頃

○日本人に古くから愛されてきた梅

○ため息を春風に変えて|自然からの贈り物 春の花言葉


トップに戻る



夏の町を彩る



夏の町に住むのは「花散里(はなちるさと)」と「玉鬘(たまかずら)」。



花散里(はなちるさと)の「花」は初夏に咲く橘の花。

源氏が須磨に退去する直前、世の中の全てが厭(いと)わしく感じていた頃に、

橘の花が香っていた花散里の邸を訪ねてきた源氏を温かく受け入れ癒します。



素朴で可憐な花を咲かせる橘は、柑橘系の実をつけ豊穣をもたらすように、

容姿があまり美しくなかった花散里は、美しい心の持主でした。




玉鬘(たまかずら)は、雨夜の品定め(二帖 帚木)にて

「頭の中将」が話題とした「夕顔」の娘。



後に、源氏は夕顔と結ばれますが、

夕顔は物の気(もののけ)に取り付かれ命を落としてしまいます。(四帖 夕顔)

源氏は母親を亡くした玉鬘を引き取り、花散里が教育をします。



○スカイブルーに映える純白の花「トリロバ」

○内面の美が備わった花 芍薬


トップに戻る



秋の町を彩る

尾瀬の草紅葉と東北地方最高峰の燧ヶ岳(ひうちがたけ)


秋の町に住むのは「六条御息所(ろくじょうみやすどころ)」の娘、

秋好中宮あきこのむちゅうぐう)。



かつて母である六条御息所を恋人にした源氏は、

娘である秋好中宮にも興味を持ちますが、

秋好中宮は、源氏が近寄る事を厭(いと)います。



ある時、光源氏と秋好中宮の間で春と秋の優劣が語り合われ、

秋好中宮は母が亡くなった秋に心を寄せていると答えます。




ギリシヤ神話に登場する大地の女神デメテル(≒六条御息所)は、

全知全能の神ゼウスとの間に春の女神ペルセポネー(≒秋好中宮)を宿します。



ペルセポネーは花を摘んでいたとろこ、

冥界の王ハーデース(≒光源氏)に連れ去られてしまいます。



デメテルは激怒し大地に実りをもたらすことをやめ、

ハーデースは娘を解放しますが、

ペルセポネーは冥界のザクロを食べてしまったため、

一年のうちの一部だけしか地上に戻ることができず、

その間だけ実りをもたらしたことから四季が始まったと伝わります。



六条御息所と秋好中宮との関係は、大地の女神デメテルと

春の女神ペルセポネーとの関係と通じるところがあるようです。



※大地の女神デメテル(ローマ神話ではケレス)
  春の女神ペルセポネー(ローマ神話ではプロセルピナ)
  冥界の王ハーデース(ローマ神話ではプルート)



○ベリーニの彫刻「プロセルピナの略奪」

○ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティが描いた「プロセルピナ」

○黄金色に染まる尾瀬ヶ原|高層湿原の短い秋

○秋を聴く 移ろいゆくコントラスト


トップに戻る



冬の町を彩る

蝋梅(ろうばい)


冬の町に住むのは、

源氏が苦境に追い詰められ旅先で出会った「明石の君」。



明石の君の「君」は「上」と違って、正式の妻の扱いを受けない立場だそう。

お腹を痛めた生んだ娘、明石の姫君を紫の上に奪われても

必至で耐える姿は厳しい「冬」の季節にふさわしいようです。



○甘い香りに誘われて|Winter Sweet ロウバイ

○Life in Green 緑の命を未来へつなごう|小石川植物園


トップに戻る



全知全能の神ゼウス
レダと白鳥

レダと白鳥 ミケランジェロ (模写) ロンドン ナショナル・ギャラリー


全宇宙や天候を支配する全知全能の神ゼウス。

(ローマ神話ではユピテル、英語ではジュピター)



好色な神であったゼウスは、知恵の神メーティスや掟の神テミス、

結婚の神ヘラなど多くの女神に恋をします。



絵画は、ゼウスが白鳥に化けて、

スパルタ王テュンダレオースの妻であるレダを誘惑している場面。



光源氏はゼウスに通じるところがあるようで、

人間の普遍的な側面を象徴しているようでもあります。



○ゼウスが娘アテナに与えた盾イージス|横須賀に配備されているイージス艦

○共に居ること、創ること|周囲ら影響を受け、影響を与えてきたイギリス


トップに戻る



自己を確立する
プロセス

シュバルの理想宮 フランス


自分が自分になれない苦悩から青年期の旅を彷徨い、

苦悩を乗り越え帰京した源氏。



それは、母性原理に包まれていた少年が、父性原理を獲得し、

壮年期を意志的に生きてゆくために分離するプロセスでもあったよう。



自分の道を切り開いていく作業は並大抵のことではありませんが、

自分の心身をもって成し遂げるからこそ、本当の自分になっていけるようです。



○企業を通して自己確立を図った高度経済成長期

○大人になりきれない大人

○自己に向き合うことの難しさ

○私が私になってゆく


トップに戻る



時移ろい 事去り 楽しみ尽きて
悲しみ来る

満月の後は徐々に欠けゆく月
盈虚(えいきょ)


○この世をば わが世とぞ思ふ 望月の欠けたることも なしと思へば


 「この世の全てがまるで自分のもののように思えます。

  私の心は欠けたところのない満月のように満足しています。」


 紫式部と同じ時代を生きた藤原道長。栄華を極めこう詠んだそう。




○亢竜(こうりょう)悔いあり 「易経」 乾卦より

  天に昇りつめた竜は、あとは下るだけになるので悔いがある。




○「時移り、事去り、楽しみ尽きて、悲しみ来る」

 「長恨歌伝」 陳鴻(ちんこう)




○徒然草 二十五段 兼好


  飛鳥川の淵瀬(ふちせ)常ならぬ世にしあれば、時移り、事去り、

  楽しび・悲しび行きかひて、はなやかなりしあたりも人住まぬ野らとなり、

  変らぬ住家は人改まりぬ。桃李(とうり)もの言はねば、誰とともにか昔を語らん。

  まして、見ぬ古のやんごとなかりけん跡のみぞ、いとはかなき。



  飛鳥川の淵や瀬は常に姿を変えているが、この川の流れのように

  移り変わり続けるのが世の常であるならば、時は移り、物事は過ぎ去って、

  喜びも悲しみも入り交じり過去に流れ去っていく。

  華やかだった場所も、やがて人の住まない荒野となるが、

  家が残っていたとしても住む人は違う人に変わってしまう。




○移ろいゆく映画の灯り|人間が持ちあわせている想いに出会う


トップに戻る



反転する人生
「女三の宮」を迎え入れる

アネモネ 神奈川県立フラワーセンター大船植物園


朱雀帝は病に冒され出家の準備を始めますが、

母を亡くした14歳ほどの「女三の宮」の将来を案じて、光源氏を婿に選びます。



40歳となっていた光源氏は、女三の宮が亡き藤壺の姪であることもあって、

六条院に迎え入れますが、正妻を奪われた紫の上の苦悩が募ってゆきます。



※源氏物語 三十四帖 若菜上




写真の草花 アネモネは、ギリシア神話に登場する美少年、

アドニスが流した血から生まれたといわれています。

アネモネの花言葉は、

「はかない夢」「薄れゆく希望」「真実」「嫉妬の為の無実の犠牲」だそう。



○春風、肌に心地よい季節 芽吹きの春


トップに戻る



色あせる栄華
柏木と女三の宮の密通

女三の宮と通じ、自責の念にかられる柏木は、重い病気にかかる。
見舞いに訪れた友人夕霧に後事をたくし、別れを告げる場面。
源氏物語絵巻 柏木(二) 国宝 徳川美術館 


これまで「紫の上」との関係を中心として営まれてきた六条院の理想郷は、

「女三の宮」を迎える事によって抑えがたく動揺しはじめます。



かねてから女三の宮に思いを寄せていた柏木は、

女三の宮が源氏の正妻となった後もあきらめることができず、

源氏の留守中に忍び込み、罪の子・薫が誕生します。



不審を抱いた源氏は、やがて二人の秘密を知り、

自分が若き日に父である桐壷帝を裏切って藤壺と通じ、

冷泉帝を生ませた罪や、そのときの桐壷帝の立場を思い煩悶します。



一方、柏木は自責の念に苦しめられ床に臥せるようになり、

死への道を歩みます。



※源氏物語 三十五帖 若菜下 〜 三十六帖 柏木



○自分の中にその存在を認める|オペラ「ドン・カルロ」にみる人間観


トップに戻る



萩の上の露のように
はかなく消えゆく

光源氏の最愛の妻である「紫の上(右上)」が重病に伏し、「源氏(中央下)」と
「明石の中宮(源氏の右・紫の上の下側)」に最後の別れを告げる場面。
源氏物語絵巻 御法(みのり) 国宝 五島美術館


「女三の宮」の部屋に通う源氏の姿に苦しむ「紫の上」は、

病を患い床に伏してゆきます。



夏の暑さに紫の上の病状はさらに進み、ようやく涼しい秋になった頃、

明石の中宮(「明石の君」の娘の「明石の姫君」、紫の上が養育)が

紫の上を見舞い、命のはかなさを庭に咲く萩についた露にたとえて、

源氏と三人で和歌を詠み交わします。



○光源氏

  今日は、いとよく 起きゐたまふめるは。

  この御前にては、こよなく御心もはればれしげなめりかし。


  今日はよく起きていられますね。

  明石の中宮の前では、気分もはればれとするのでしょうね。



○紫の上

  おくと見るほどぞはかなきともすれば風に乱るる萩のうは露げにぞ、

  折れかへりとまるべうもあらぬ、よそへられたる折さへ忍びがたきを、

  見出だしたまひても、


  萩の上の露は宿ったとみる間もはかなく、どうかするとたちまにち風に乱れて

  落ち散ってしまいます。私が起きているとご覧になっても、束の間には

  はかなくなってしまうでしょう。





○光源氏

  ややもせば消えをあらそふ露の世に後れ先だつほど経ずもがな


  どうかすると先を争って消える露のようにはかない世の中なのだから、

  わたしたちはいつも一緒でありたいのです。





○明石の中宮

  秋風にしばしとまらぬ露の世を誰れか草葉のうへとのみ見む

  かくて千年を過ぐすわざもがな


  秋風に吹かれてしばらくもとどまることなく散っていく露のような命を、

  だれが草葉の会うことだけと思いましょうか。人の世も同じですよね。




○紫の上

  今は渡らせたまひね。乱り心地いと苦しくなりはべりぬ。

  いふかひなくなりにけるほどと言ひながら、いとなめげにはべりや


  もうお引取り下さい。気分がいかにも苦しくなりました。

  このようにどうにもままならない有様とはいえ、これではまことに失礼ですから




こうして紫の上は、はかなくも露のように消えてゆきます。



※源氏物語 四十帖 御法(みのり)



○生と死のはざ間にある「時」を歩む


トップに戻る



苦しんだからこそ周囲の幸せを熱望できる
傷ついた女神

木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)を祀る富士山本宮浅間大社


大きくひび割れ傷ついた「紫の上」。



自分自身が救いを求めて苦しんだからこそ、

他者の「幸せになりたい」という願望に共感することができ、

他者を「幸せにしたい」と熱望できたようでもあります。



しかし、他人を幸福にした如意宝は、

他人の苦しみを引き受け、さらなる苦悩を抱え込んでしまうようです。



日本の伝統演劇|舞台芸術の根源的な魅力

○私たちの身近に寄り添う「愛と人間性」の芸術|ミュージカル


トップに戻る



わが人生を悔い
大地に帰る

北海道上川郡美瑛町美田


「紫の上」に先立たれ、現世へいかなる執着も残らぬ源氏にとっては、

この悲嘆を静める出家だけが残された道になります。



源氏52歳。故人をしのび、わが人生を悔い、

出家して嵯峨院に籠りその生涯を閉じたのは、その数年後だったそう。



そして源氏亡き後、残された縁者たちはそれぞれの人生を歩んでいきます。



※源氏物語 四十帖 御法〜四十二帖 竹河


トップに戻る



物語の話型
未知の旅へ

NADIEN 葉山鐙摺ヨットクラブ


物語の話型の一つといわれる「貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)」。



貴種(きしゅ)は、尊い命を引く人を指し、

流離譚(りゅうりたん)は、大きな挫折から旅に出て試練に直面しながらも

克服する物語のことだそう。



  @未熟な若者が困難に出会い如意宝を失う
     ↓
  A人間関係に閉塞し、居場所を失う
     ↓
  B辺境の地へと旅に出る
     ↓
  C旅先で親切な老人や美しい人に出会う
     ↓
  D如意宝を獲得する
     ↓
  E元いた場所に戻る
     ↓
  F幸福が訪れる



源氏物語の光源氏は、桐壷帝の第二皇子として生まれた貴種であり、

周囲の圧力という挫折から、須磨・明石の旅に立ち試練に直面しながらも、

京に戻り六条院という栄華を極めていきます。



源氏物語以外では、「竹取物語のかぐや姫」や「伊勢物語の在原業平」、

スタジオジブリの作品「もののけ姫のアシタカ」、

「ルパン三世・カリオストロの城のクラリス姫」、

ディズニーの作品「ライオン・キングのシンバ」、「美女と野獣のビースト」

「リトル・マーメイドのアリエル」、「アナと雪の女王のエルサ姫」など、

多くの作品で見られるようです。



試練の旅は、少年が大人になってゆく青年期だけに限らず、

青年が壮年になる時期、壮年が老年になる時期をも含んだ、

新たなステージに脱却するプロセスでもあるようです。



○船に乗り海を越えて、見たこともない未知へ

○光る海に霞む船の汽笛を遠くに聞きながら|葉山⇔伊勢湾ヨットクルーズ

○私たちの身近に寄り添う「愛と人間性」の芸術 ミュージカル


トップに戻る



生きがいを見出す
作者・紫式部の背景



藤原為時(ためとき)の娘として生まれた紫式部。



家系は政治の中心からは遠く、

受領階級(ずりょうかいきゅう:中下流貴族)としての地位は定着していたそう。



幼くして母を亡くした紫式部は、

成長とともに優れた才能を開花させていったそうですが、

当時、女性にとって学問は無用のものであり、

なまじ学問好きの女性は敬遠されたといいます。



その為、紫式部は人前では漢字を書こうとせず、

詩句も読めないかのように振る舞ったそう。(紫式部日記)



父・為時は、紫式部が男子であったらと嘆いたといいますが、

もし紫式部が男子であったら、学問は官人として出世していくために

必要な実用学となり、源氏物語は存在しなかっただろうといわれます。



結婚については、藤原信孝と結ばれますが、

信孝は既に40代の半ばで、何人かの妻妾(さいしょう)との間に

26歳の長男をはじめ何人かの子女がおり、積極的ではなかったよう。



そして結婚生活は、夫の死去により二年余りで終焉を迎えたそうです。



紫式部は、わびしい自己の実人生とは別の

輝かしい可能性を持った人生を虚構の物語として創作することによって、

生きがいを見出すことができたよう。


トップに戻る



自らの人生を歩む

尾瀬 大江湿原


○「忘るるは うき世のつねと 思ふにも 身をやるかたの なきぞわびぬる」


  人のことを忘れてしまうのは、憂き世の常だと分かっていても、

  忘れられる身のやり場がなく、切なく泣いたことです。





○「心だに いかなる身にか かなふらむ 思ひ知れども 思ひ知られず」


  どんな生き方をしても自分の心が満足できないとわかっている。

  それでも、満足する生き方を求めようとする心が残っているのだ。




※2首ともに紫式部集より




どの時代においても理想的な人間像というものは、

その時代が抱えている現実の問題を反映しているといいます。



無類の美貌と才能と愛情の所有者である源氏物語の主人公 光源氏。

紫式部が孤独の中で追い求めていった空想の世界の主人公は、

想像できる限りの理想の男性像でした。



しかし、孤独と愛を通して築きあげた栄華は、

幻のようにはかなく消え去ってゆきます。



理想と幸福を求めたはずの物語を否定してゆく紫式部は、

「自分とは何か」を考え続けることで自己変革を遂げていったようでもあります。



読者の人生観と世界観を一変させる「人間を変える力」を持っている源氏物語は、

現世に絶望しながら虚構の世界に人生を託して生きぬいた

紫式部の強壮な精神の上に成り立っているよう。



○人と人・人と自然との共存から未来を紡ぐ Life is a Journey

○たおやかに熟成してきた白神の時間

○凝縮された尾瀬の季節|厳しくも豊かな自然が見せる横顔

○自分が人生の主人公|無門関 巌喚主人


トップに戻る



21世紀を生きる
私たち

国際連合本部 ニューヨーク


21世紀を生きる私たち。



グローバル化や少子高齢化、高学歴化、女性の社会進出による共働き、

夫婦協力しての家事・育児の増加などにより、 大人の存在は、

昔の威厳ある時代からやさくして友達のような存在に移る傾向もみられ、

親子のタテ関係がヨコ関係に移行しつつあるといいます。



その一方、従来の家長制度の名残りが根強い部分もあり

新旧混在した時代になっているよう。



そのような背景の中、自分になってゆく過程を歩むためには、

ともに生きる存在が必要不可欠だといいます。



自他ともに「これでいいんだ」という安心感をもつことから他者との関係性は築かれ、

押しつけではなく相手を信じて適度に任せあうことから信頼関係は築かれるよう。



大人になるということは、

自分の言動と行動にしっかり責任をとれる存在になることであり、

先をいく大人は、立派な見本を見せるのではなく、

温かい心で誠実に偽りなく生きていくことが、

後をいく者にとっての躾となり、信頼を得ることができるようです。



私自身、そっと見守り、そっと支える存在となれるよう、心より願っています。



○価値観の押しつけ ある教師の振り返り

○本音と建前 大人の本音を当てるゲーム

○混迷の中から新たな絆を紡ぐ
それぞれの世代はそれぞれの時代状況を背負い歩んでいる


○魔力を秘め、夢と現実が交錯するニューヨーク


トップに戻る



参  考  情  報


○源氏物語の世界 再編集版

○3分で読む源氏物語/紫式部の平安文学54帖/光源氏の生涯のあらすじ

○源氏物語(原文・現代語訳) - 学ぶ・教える.COM

○『源氏物語の謎』増淵勝一 著 - 国研ウェブ文庫 - 国研出版

○古典総合研究所ホームページ

○源氏物語 道しるべ | 六十過ぎたら源氏物語

○五島美術館

○静嘉堂文庫美術館

○王朝の華 源氏物語絵巻|徳川美術館

○青空文庫 Aozora Bunko

○石山寺 | 紫式部 安産 福徳 縁結 厄除

○平成花子の館

○葵祭 | 京都市観光協会

○須磨観光協会 - Suma Tourism Association

○須磨浦公園 | 神戸市公園緑化協会 神戸の公園ナビ

○奈良薬師寺 公式サイト|Yakushiji Temple Official Web Site

○『もののけ姫』の「シシ神」は、なぜ「シシ神」という名前なのか?
WisdomMingle.com(ウィズダムミングル・ドットコム)


○富士山本宮浅間大社:トップ

○有名な絵画・画家 美術作品の解説

○ウォルターズ美術館|The Walters Art Museum

○シュバルの理想宮|Palais Ideal du Facteur Cheval

○日本交流分析学会 | Japanese Society of Transactional Analysis

○日本心理医療諸学会連合 UPM

○奈良内観研修所

○宝塚歌劇公式ホームページ

○The Official Mahatma Gandhi eArchive

○Imagebase: Free Stock Photography

○フリー百科辞典Wikipedia

○源氏物語の1000年展−あこがれの王朝ロマン−
 2008年8月30日〜11月3日 横浜美術館

○源氏物語千年紀 石山寺の美 観音・紫式部・源氏物語
 2009年3月7日〜3月29日 横浜そごう

○源氏物語 現代語訳 秋山虔 学燈社

○源氏物語 言葉・構え・ところ 中井和子 東方出版

○源氏物語入門 「源氏物語大辞典」編集委員会 編 角川選書

○源氏物語 新編日本古典文学全集

○源氏物語の人間関係 島内景二 ウェッジ 2008年

○源氏物語の話型学 島内景二 ぺりかん社 1998年

○日本の物語文学 島内裕子 放送大学

○和歌文学の世界 島内裕子 放送大学

○伊勢物語宗長聞書(いせものがたりそうちょうききがき)

○The Tale of Genji 紫式部, アーサー・ウェーリー(英訳)
 アーサー・ウェリー(Arthur David Waley/1889-1966)はイギリスの東洋学者
 1925(大正14)年 源氏物語の英訳版(全六巻)をロンドンにて刊行

○東方綺譚(Nouvelles orientales) 「源氏の君の最後の恋」
 マルグリット・ユルスナール(Marguerite Yourcenar,1903-1987)
 ユルスナールはフランスの女性小説家

○四門(しもん)
 天台宗で説く、真理に至るための四つの門

 ・有門(うもん) … 生 (真実)
 ・空門(くうもん) … 死 (虚構)
 ・亦有亦空門(やくうやくくうもん) … 生死一念 (真実にして虚構)
 ・非有非空門(ひうひくうもん) … 生に非ず死に非ず
                      (真実でもなければ虚構でもない)

○わが魂にあうまで クリフォード・ホイティンガム・ビーアズ
 江畑敬介(訳) 星和書店 1980

○D. W. ウィニコット(Winnicott, D. W.)
 Holding・Nursing or Handing・Object Presenting

○第43回日本交流分析学会 中央研修会 2015 春
 「ストローク」と「ディスカウント」:本当の用い方
 日本大学文理学部
 日本交流分析学会・教育研修委員会

○TA TODAY 最新・交流分析入門

○交流分析
 ・自我状態の機能分析
  「Free Child」重視から「Adult」重視へ
 ・ストローク
  ・ストローキング・プロフィール
   ・ストローク・フィルター
   ・ストローク・エコノミー
    ・良いストロークが来ても、それを受け取らない。受け取っても喜ばない。
    ・欲しいストロークがあっても、それを素直に人に求めない。
 ・時間の構造化
  親密さ→引きこもり
 ・心理ゲーム
  さあ捕まえたぞ、このやろう
  (NIGYSOB:Now, I've got you, you son of a bitch)
 ・トレーナー
  私はやさしくて辛抱強い(いつか復讐してやる)
 ・スクリプト・プロセス(脚本の過程)
  「…までは」脚本(良いことは、それほど良くないことが済むまでは起こらない)
 ・人生の立場
  I am not OK, You are OK
 ・禁止令
  おまえであるな・成功するな・重要であるな・属するな
 ・拮抗禁止令
  成功しない限り、重要でない限り、おまえであってよい
 ・ドライバー
  完全であれ・他人を喜ばせろ・急げ
 ・ミニ脚本
  完全を目指す(努力する)限り、他人を喜ばせている限り、
  急いでいる限り、おまえであってよい
 ・エピスクリプト
  想定される父親の禁止令 おまえであるな
  息子や娘にこれが起これば、私は救われる(ホットポテト)
 ・ゲーム分析
  ・Gの方程式
   わな(Con) + 弱み(Gimmick) = 反応(Response) →
   切り替え(X:Switch) → 混乱(Crossup) → 報酬(Payoff)
  ・ドラマの三角図
   救助者→犠牲者(お役にたとうとしただけなのに)
              I am only trying to help you
   救助者→迫害者(こんなに一生懸命やっているのに)
   犠牲者→迫害者(さあ捕まえたぞ、この野郎) NIGYSOB
 ・脚本分析
  ・ドラマの種類 喜劇 愛と苦悩の日々
  ・レ・ミゼラブル、ライオン・キングのシンバ、ウィキッドのエルファバ
  ・思春期後半、他人本位(相対主義)から自分本位(絶対主義)に傾倒
  ・勝者、幸福
 ・再決断
  ・ストロークを受け入れる、ストロークを求める、ストロークを与える
  ・ゲームへの対し方
   ・相手の自我状態、およびその変化に注目
   ・「最初のわな」には「Adult」で対応
   ・自分の自我状態を変化させる
   ・交流を交差させる
   ・自分のドライバーで反応することを拒絶する

○キャリア・アンカー 自分のほんとうの価値を発見しよう
 エドガー H. シャイン 金井壽宏(訳) 白桃書房
 @専門・職能別コンピタンス
 A全般管理コンピタンス
 B自律・独立 ◎
 C保障・安全
 D起業家的創造性
 E奉仕・社会貢献
 F純粋な挑戦
 G生活様式

○日本心理医療諸学会連合 第27回大会 2014.09
  メンタルヘルスを支えるポジティブ・サイコロジー
  日本大学文理学部 百周年記念館
  ・第一部
  ・メンタルヘルスを支えるポジティブ・サイコロジー
  ・認知行動療法とポジティブ・サイコロジー
  ・「幸福追求」とポジティブ心理学
  ・健康増進と能力発揮のポジティブ心理学
  ・コミュニケーションスキル教育とポジティブ・サイコロジー
 ・第二部
  ・内観療法の基礎から応用まで
  ・内観の体験的学習
    ・世話になったこと
    ・して返したこと
    ・迷惑をかけたこと
  ・講師 真栄城 輝明 先生 奈良女子大学文学部教授

○学級開きのエンカウンター 2015.03
 ・講師 仲手川勉 先生 (小学校校長)
      学校心理士・教育カウンセラー・臨床心理士
 ・内容
  ・いろいろ握手
  ・サイレントじゃんけん
  ・ラッキー5
  ・2人のハートはぴったりんこ
  ・名前のことばあそび
  ・作者あて
  ・4つの窓
  ・サッカーじゃんけん
  ・別れと出会いのじゃんけんゲーム
  ・モンターフェイス
 ・神奈川県教育カウンセラー協会

○新訳 思い出のマーニー When Marnie Was There
 ジョーン・G・ロビンソン, 越前敏弥(訳) 他 角川文庫 2014

○青春を山に賭けて 植村 直己 文春文庫 2008

○のはらうた 工藤直子

○角野栄子講演会 『魔女の宅急便と私 −私の本について語ろう−』
  横浜市中央図書館 2015.02

○マハトマ・ガンディー
 あなたがすることのほとんどは無意味であるが、
 それでもしなくてはならない。
 そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、
 世界によって自分が変えられないようにするためである。

○発信し続けること


トップに戻る

Copyright (C) 2015 MOON WATER All rights reserved