清らかな世界、それは
私たちの住む穢れた世界


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すばらしい新世界
不満と無縁な安定社会

未来予想図


※「すばらしい新世界」 オルダス・ハクスリー. 黒原敏行(訳) 光文社古典新訳文庫


<作品紹介>

西暦2540年。人間の工場生産と条件付け教育、フリーセックスの奨励、快楽薬の

配給によって、人類は不満と無縁の安定社会を築いていた。だが、時代の異端児

たちと未開社会から来たジョンは、世界に疑問を抱き初め…驚くべき洞察力で描

かれた、ディストピア(⇒ユートピア:理想郷とは正反対の社会)小説の決定版!



<第1章 p10-11>

受精卵は孵化器に戻され、支配階級のアルファ階級とベータ階級になる受精卵は

壜詰(びんづ)めの時期までそこにとどまる。一方、その下位のガンマ階級、デルタ

階級、エプシロン階級になるものは、わずか36時間で孵化器を出されて、ボカノフ

スキー法の処置へと進むことになる。



<第1章 p21-22>

「わたしたちは社会階級の決定と条件づけ教育も行います。赤ん坊を社会化された

人間にするんです。アルファ階級になるか、エプシロン階級になるかを決めます。

将来の下水道作業員となるか、それとも将来の…」フォスターは、"世界統制官"と

言いかけてやめ、"将来の<孵化・条件づけセンター>所長"と言った。

所長はにっこり笑って世辞を受け入れた。




※オルダス・ハクスリー(Aldous Huxley, 1894-1963年)
 イギリスの作家。祖父、長兄、異母弟が著名な生物学者、父は編集者で作家、
 母は文人の家系という名家に生まれる。



○進化するテクノロジー|人間のフロンティア


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善良で幸福なメンバーになるには
総合的理解は低いほうがいい

ベルトコンベヤ方式を採用し、量産に成功したT型フォード
小説「すばらしい新世界」では、フォード様が神として崇められています


※「すばらしい新世界」 オルダス・ハクスリー. 黒原敏行(訳) 光文社古典新訳文庫
 2013 第1章 p8-9


「全体を総合的に理解してもらうためだ」と所長は生徒たちに説明した。言うまでも

なく、知的労働をするためには総合的な理解が必要だ。もっとも、社会の善良で

幸福なメンバーになるためには、総合的理解の度合いはできるだけ低いほうがいい。

なぜなら誰もが知るとおり、細々(こまごま)とした具体的な事柄こそが美徳と幸福

の源泉だからだ。総合的理解は知的な必要悪である。社会の屋台骨を支えている

のは哲学者ではなく、旋盤工や切手蒐集(しゅうしゅう)家なのだ。



「いずれ近いうちに」と所長はやや恐ろしい感じのする愛想笑いを浮かべてつけ

加えた。「きみたちは地道な仕事につく。総合的理解などにうつつを抜かしている

暇はなくなる。だからそれまでに…」

それまでに、ありがたいこの特権を享受すべきだ。所長の口から出る言葉を

そのままノートへ、少年たちはかりかりと狂ったように書きこんでいく。



○生命の跳躍|海洋を統合的に理解する

○UNIVERSE|自然科学と精神科学の両側面


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欲しいのは労働者の手と足
頭はいらない

フォードの組み立てライン (1913年)


フォード・モーターの創設者ヘンリー・フォードは、「私が欲しいのは労働者の

手と足だ、頭はいらない。手・足と頭は切り離せないので人間を採用している。

彼らは私が考えたことを忠実に実行すればいい」と述べたといわれます。


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共同性・同一性・安定性
生物学に応用される大量生産

「モダン・タイムス(1936)」 チャーリー・チャップリン
(Modern Times Charlie Chaplin)


※「すばらしい新世界」 オルダス・ハクスリー. 黒原敏行(訳) 光文社古典新訳文庫
 2013 第1章 p13


「96人のまったく同じ多胎児が、96台のまったく同じ機械を動かす!」

所長の声は感動に震えんばかりだ。「人は自分の本当の居場所を知るよう

になった。これは歴史始まって以来のことだ」そこで地球全体のモットーを

唱えた。「共同性(コミュニティ)、同一性(アイデンティティ)、安定性(スタビリ

ティ)」重々しく厳かな言葉だ。「ボカノフスキー化を無限に推し進めることが

できれば、すべての問題が解決されるのだ」



すべての問題は、規格化されたガンマ階級、一定不変のデルタ階級、画

一的なエプシロン階級の存在によって解決される。数百万人の一卵性多

胎児。大量生産の原理がとうとう生物学に完全に応用されるのだ。


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自ら進んで退化する
労働する動物の勝利

ドイツ出身のユダヤ人哲学者ハンナ・アーレント 1924年
(Hannah Arendt、1906-1975年)


※「人間の条件」 ハンナ・アレント 志水速雄(訳) ちくま学芸文庫 1994
 第6章 <活動的生活>と近代 45 <労働する動物>の勝利 p500


労働社会の最終段階である賃仕事人の社会は、そのメンバーに純粋に

自動的な機能の働きを要求する。それはあたかも、個体の生命が本当

に種の総合的な生命過程の中に浸されたかのようであり、個体が自分

から積極的に決定しなければならないのは、ただその個別性─まだ

個体として感じる生きることの苦痛や困難─をいわば放棄するという

ことだけであり、行動の幻惑され「沈静化された」機能的タイプに黙従

するだけであるかのようである。



…たしかに近代は人間の活動力の先例のない、将来を約束するような

爆発をもって始まった。しかしその近代は、歴史上最も不活発で、最も

不毛な受身の状態のままで終わるかもしれない。



…もう一つ、もっと重大で危険な兆候がある。それは、人間がダーウィン

以来、自分たちの祖先だと想像しているような動物種に自ら進んで退化

しようとし、そして実際にそうなりかかっているということである。


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天才が一人いるよりも
鈍才が十人いる方が都合が良い

スイスの小説家 ヘルマン・カール・ヘッセ (Hermann Karl Hesse, 1877-1962)
ドイツ・シュヴァーベン生まれ、1946年ノーベル文学賞受賞


※「車輪の下」 ヘッセ. 松永美穂(訳) 光文社古典新訳文庫 2007
 第4章 p154-155


…学校の先生はクラスに天才が一人いるよりも、正真正銘の鈍才が

十人いる方を喜ぶのである。それはもっともなことである。というのも、

教師の課題は極端な人間を育てることではなく、ラテン語や計算の

できるよき小市民を養成することにあるからだ。



教師と天才のどちらがより多く、重大な苦しみを相手から受けているか、

二人のうちどちらがより暴君で駄々っ子であるか、どちらがどちらの魂

や人生の一部を台無しにし汚しているか。そうしたことについては、自分

の青春を思い出し、憤慨したり恥辱を覚えたりすることなしには探求でき

ない。



しかしこれはいまの我々の主題ではないし、真の天才の場合、ほとんど

いつもそうした傷はふさがり、学校に反抗しながらもよき成果をあげる

ものであるから、我々は安心してよいのだ。



やがて彼らが死に、はるか彼方で心地よい後光に包まれるようになると、

他の世代の生徒たちに向かって学校の教師が、その天才をすばらしい

人物、高貴な例としてほめそやすようになる。そういうわけで、学校や時代

が変わっても掟と精神のあいだの闘争という茶番劇がくりかえされ、我々

は常に国家と学校が、毎年出現する何人かの価値ある深遠な精神を、

たたき殺し根元で折り取ろうと息を切らして努力している様子を目撃する

のである。



そして、後々になって我が国民の宝を豊かにしてくれるのは相も変わらず、

とりわけ学校の教師から憎まれ、しばしば罰せられ、道を踏み外し追放

された輩なのである。しかし多くの者は─どれくらいの数になるか誰が

知ろう?─静かな反抗のなかで消耗し、破滅していくのだ。



○社会の転換期|視点が変わると見え方も変わる


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真実を求めるという
厄介な精神に勝利する

St. Paul's Cathedral, London


※「ダロウェイ夫人」 ウルフ 土屋正雄(訳) 光文社古典新訳文庫 2010 p54
 (ダロウェイ夫人は、第一次世界大戦直後のロンドンを舞台にした物語)


影の薄いみすぼらしい風体(ふうてい)の男が、革の鞄を抱えてセントポール

大聖堂の石段に立っていた。男は入ることをためらっていた。この内部には

どんな癒しがあり、どれほどの歓待があるのか、と思った。どれほどの墓石

が旗をなびかせているのか。その墓石と旗は、敵軍に勝利した印ではない。

真実を求める精神というあの厄介者に勝利した印だ。なにしろ、おれ自身が

真実を追い求めた結果、こうして職のない身でいるわけだからな。



それより何より、この大聖堂は人との交わりの場だ。社会の一員として資格

を与えてくれる場所だ。偉大な人々がこの教会に属し、多くの人々が殉教した。

おれはなぜ入らない。主張を書いたパンフレット入りのこの革鞄を祭壇に

置いたらどうだ。十字架の前にさ? 追求や探求や言葉での議論をはるかに

超越し、肉体を脱して幽霊のごとき精神そのものになった何かに捧げたら?

おれはなぜ入らない。男が思い、ためらっているとき、ラドゲードサーカスの

上空に飛行機が飛んだ。



○イギリスの物語と街並みに触れる|Books about Town


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それまでの戦争と比較にならない程
大量の犠牲者を出した第一次世界大戦

Parade in London at the end of World War I 1918


人類史上最初の世界大戦とされる第一次世界大戦(1914-1918年)。

工業の発展により、戦車・飛行機・毒ガス・通信といった新たな武器が

利用され、それまでの戦争と比較にならない程の死傷者を出しました。



○共に居ること、創ること|周囲から影響を受け、影響を与えてきたイギリス


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人生を紡ぎ出し、築き上げ、
でも一瞬ごとに壊して新しく作りなおす

毎年11月11日に行われる第一次世界大戦 戦没者追悼記念式典(ロンドン)
Remembrance Day (Poppy Day)


※「ダロウェイ夫人」 ウルフ 土屋政雄(訳) 光文社古典新訳文庫 2010 p13


人はみな愚か者、とビクトリア通りを渡りながら思った。なぜこれほど生を愛し、

生を見つめたがるのか、誰も知らない。人生を紡ぎ出し、築き上げ、でも一瞬

ごとに壊して新しく作りなおす。身を持ち崩した人も、打ちひしがれて戸口に

うずくまる人も(没落に乾杯!)それは同じ。だから、議会や法律でどうこうする

なんて絶対に無理。



みんな生きることを愛してやまない。人々の眼差しに、その足取りの軽さ、重さ、

心細さに、わたしの愛するものがある。怒鳴り声と喧噪に、馬車と乗用車とバス

と運送者に、踊りながら歩くサンドイッチマンに、ブラスバンドと手回しオルガンに、

頭上を飛ぶ飛行機の得意げな爆音と甲高い奇妙な唸りに、わたしの愛するもの

がある。生と、ロンドンと、この六月の一瞬がある。いまは六月半ば。戦争は終わった。



○人類の智の宝庫|大英博物館

○英国500年の美術に触れるテート・ブリテン


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深海魚のように正体不明
人の自我

イギリス植民地政府による塩の専売に反対した
マハトマ・ガンディー 塩の行進 1930年


※「ダロウェイ夫人」 ウルフ 土屋政雄(訳) 光文社古典新訳文庫 2010 p278-279


保守派のばか者どもがインドで何をしてるか、リチャードに問いたい。

いまかかっている芝居を知りたいし、やっている音楽も…

そして、やはりゴシップだ。魂とはそういうもの、とピーターは思う。



人の自我は深海魚のように正体不明で曖昧模糊なるものの間を行き来し、

立ち上がる巨大海藻の間を縫いながら、日の光のちらつく空間を抜け、先

へ、先へ、闇と冷たさと深さと謎の中に沈んでいく。だが、突然、海面まで

一気に浮き上がり、風紋のある波とたわむれる。要するに、わが身の埃を

払い、垢をこすり、燃え立たせるには、ゴシップの交換が絶対に必要という

ことだ。



※イギリスはインドに第一次世界大戦(1915-18)への協力を求め、見返りに
 戦後の独立を約束しましたが、実質的にこの約束を反故にしました。これ
 以降、ガンディーの指導のもとで反英運動とインド独立運動が激化してゆ
 きます。



○あふれる力でともに未来へ|植民地化されてきたアフリカ


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東と西のバラード
ふたりの勇者は向かいあうのだ

東インド会社 (ロンドン) Thomas Malton 1800


※「The Ballad of East and West」 Joseph Rudyard Kipling
 「東と西のバラード」 ジョゼフ・ラドヤード・キプリング


Oh, East is East, and West is West, and never thr twain shall meet,

Till Earth and Sky stand presently at God's great Judgment Seat;

But there is neither East nor West, Border, nor Breed nor Birth,

When two strong men stand face to face, they come from the ends

of the earth!



ああ、東は東、西は西、このふたつが交わることはない

が、それも、大地と空が最後の審判の席で神の御前に立つときまでのこと

そのとき、東も西もなくなり、国境も、人種も、生まれのちがいもなくなり

地の果てからやってきたふたりの勇者は向かいあうのだ



※「プークが丘の妖精パック」 キプリング 金原瑞人・三辺律子(訳)
 光文社古典新訳文庫 2007 解説 p374-375



○あふれる力でともに未来へ|植民地化されてきたアフリカ


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強者にできない腹いせを
身近な人に置き換える



※「すばらしい新世界」 オルダス・ハクスリー. 黒原敏行(訳) 光文社古典新訳文庫
 2013 第12章 p255-256


「不幸の原因はきみなんだからな。きみがパーティに来ないから、みんな僕の

敵になっちったんだ!」

これが馬鹿馬鹿しいほど不当な言い訳であることは充分承知していた。些細な

ことで敵となってこちらをいじめる友人たちなど無価値だとジョンは言う。その

ことはバーナードも内心認めており、しばらくすると口に出して言いもした。だが、

そのことを承知し、言葉で認めても、そして今はジョンの理解と同情だけが慰め

だとわかっていても、パーナードはジョンに対して本心からの好意とともに密かな

恨みを持ちつづけ、ジョンにちょっとした復讐をしてやろうと考えていた。(中略)



…ジョンは腹いせの標的として、お歴々(れきれき⇒地位・身分などの高い人々)

にはない大きな利点を持っている。それは手が届く相手だということだ。友達の

効用のひとつは、敵に加えられない攻撃を(いくらか穏やかなシンボリックな形

で)受けとめてもらう犠牲者にできることだ。


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彼らが、ああいう男たちが
人生を堪えがたいものにする

「自殺」(1877-1881) エドゥアール・マネ


※「ダロウェイ夫人」 ウルフ 土屋政雄(訳) 光文社古典新訳文庫 2010 p319-320


青年が自殺─どうやって? 思いがけず事故の話を聞かされると、クラリッサ

の体はまずそれを追体験する。ドレスが燃え上がり、体が焼け焦げる。

窓から身を投げた? 地面が急速に近づいてくる。鉄柵の錆びた先端が

青年の体を打ち、ずぶずぶと貫く。いま地面に横たわった。脳内では、

ドスン、ドスンという音が鳴り響いたことだろう。そして、絶命の闇が訪れる。

クラリッサにはそれが見えた。(中略)



…わたしたちは(今日一日、心にブアトンがあり、ピーターがいて、サリーがいた)

老いてゆく。重要なことがある。でも、重要だと飾り立てても、生活の中で汚され、

曖昧模糊となり、堕落や嘘やくだらないおしゃべりの中で日々失われていくもの

がある。青年はそれを永遠に守りきった。死は挑戦。死は伝達の試しみ。

人々は中心を求めながら、それが神秘の力によっておのれの手を逃れつづける

のを感じる。親密さが分解し、歓喜が色褪せ、おのれが独りであることを感じる。

死には抱擁がある。(中略)



…それとも、世には詩人や思想家がいる。仮にこの青年がその種の情熱の持ち主で、

医師を訪ねたとしたら? サー・ウィリアムズは偉大な医師だ。わたしにはどこか

悪人に思えるけど、性も情欲もなく、女にはきわめて礼儀正しい。でも、とてつも

ない悪逆非道ができる─魂を力づくで…それだ。訪れた青年に医師がその力を

行使し、無理やり診断を押しつけたら? 人生は堪えがたい─青年はそう思わな

かったろうか(きっとそう。わたしには感じる)。彼らが、ああいう男たちが、人生を

堪えがたいものにする─そう言わなかっただろうか。



○プリマヴェーラ|悲劇によって道義を知る「虞美人草」

○愛するあまり滅ぼし殺すような悪


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現実世界を牛耳る者は
仮想世界での栄光を仇敵に譲る

攻め滅ぼした北条一族の霊を弔うため、後醍醐天皇が足利尊氏に命じ、
北条家の屋敷跡に建立したといわれる宝戒寺 (神奈川県鎌倉市)


※「京都ぎらい」 井上章一 朝日新書 2015
  五 平安京の副都心 天龍寺と法隆寺 p193-194


たたかいの勝者が、勝利に安住しきれないことは、今でもよくある。

敗者が自分にいだくでろううらみを、心やすらかにうけとめられる人

は、あまりいない。勝った側も、どこかで、申し訳なく、またうしろめ

たく感じるものである。とりわけ、だましうちや、うらぎりで勝利をおさ

めた勝者は、その不安をふくらませやすい。



現代人ならば、そういうさいにおこる胸さわぎを、心理的な反応として

うけとめよう。勝利をやましく感じてしまう自分に、もっと強くなれと、

言い聞かせるのかもしれない。あるいは、カウンセラーにすがったり

するのだろうか。



だが、以前は脳裏にうかぶそういった心配事を、怨霊のせいにした。

自分の心にわだかまりがあるせいで、不吉なことを想いえがいて

しまうとは、考えない。うらみをすてられない敗者の霊こそが、勝者

をさいなむのだと思い込む時代もあった。当人じしんの心理ではなく、

他人の霊が、自分を不安にさせているのだ、と。(中略)



怨霊の力がきわだつとみなされたおりには、その神格化がはかられた

りもした。政治闘争の敗者は、しばしば勝者たちの手で、神へとまつり

あげられていったのである。



もう、俺たちにはいろいろなわざわいを、およぼしてくれるな。これからは、

お前のことを神としてうやまいつづけるから、おとなしくしていてほしい。

そんな想いをこめて、勝者およびその末裔は、敗者を神にしたてていった。

現実世界を牛耳るものが、仮象世界での栄光だは、仇敵(きゅうてき)に

ゆずったのである。



○150年の歴史に幕を閉じた鎌倉幕府終焉の地


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我々の美徳はほとんどの場合
偽装した悪徳にすぎない

フランスの貴族・モラリスト文学者 フランソワ・ド・ラ・ロシュフコー(1613-1680)
タイトルの「我々の美徳は…」は、ラ・ロシュフコーの箴言集より


※「パンセ(中)」 パスカル. 塩川徹也(訳) 岩波文庫 2015
 断章627/ブランシュヴィック版150


虚栄は人の心に深く錨をおろしているので、兵隊も皿洗いも人足も、それぞれ

自慢話をしては、人から関心してもらおうとする。哲学者でさえ崇拝者を欲し

がる。虚栄批判の文章を綴る著者は見事に書いたという誉れを欲しがり、

読者は読者でそれを読んだという誉れを欲しがる。そしてこれを書いている

私にもおそらく同じ欲望があり、そしてこれを読む人々にもおそらく…



※仏文でパスカルを〈勉強〉すること 2019.03
  講師 塩川徹也 先生 (東京大学名誉教授)
  会場 東京大学本郷キャンパス 法文2号館1大教室
  塩川徹也先生文化功労者顕彰記念講演、野崎歓先生最終講義
  東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 フランス語フランス文学研究室



○人間の弱さと限界、そこからの可能性|パスカル「パンセ」

○善と悪を兼ね備える人間|善の基礎となる個人性の実現


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もう戦うことができません
だから最善と思うことをします

イギリスの小説家 ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf, 1882-1941年)
1941年3月28日、自宅近くのウーズ川で入水自殺を遂げます


※ヴァージニアが夫・レナードに宛てた遺書


最愛のあなた

また自分の頭がおかしくなっていくのが分かります。私たちはあのひどい時期を

もう二度と乗り切ることはできないでしょう。それに今度は治りそうもありません。

声が聞こえるようになって集中できないのです。だから最善と思うことをします。

あなたは私をこれ以上ないほど幸せにしてくれました。あなたは誰にも代えがたい

人でした。二人の人間が私達ほど幸せになれることはないでしょう。この恐ろしい

病気が始まるまでは。もう戦うことができません。私はあなたの人生を犠牲にして

います。私がいなければあなたは自分の仕事ができるのですから。あなたはでき

るはずです。もうこの文章さえきちんと書けません。読むこともできない。

言っておきたいのは、私の人生の幸せはすべてあなたのおかげだったということ

です。あなたは私に対してとても忍耐強く、信じられないほどよくして下さいました。

他の人たちも分かっています。もし誰かが私を救ったとしたら、それはあなたでした。

私にはもう何も残っていませんが、あなたの優しさだけは今も確信しています。

これ以上あなたの人生を無駄にするわけにはいかないのです。今までの私たち

以上に幸せな二人は他にはありません。 V(レナードに宛てた書き置き)



○セクシュアリティとジェンダー|文学にみる女性観


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自己が崩壊する瀬戸際
対象と過度に同一化する

プラハ生まれ、オーストリアの詩人 ライナー・マリア・リルケ
(Rainer Maria Rilke、1875-1926年)


※「マルテの手記」 リルケ. 松永美穂(訳) 光文社古典新訳文庫 2014
 9月11日、トゥリエ通り(パリ)にて p11,14,15


そう、そういうわけで、人々は生きるためにここに来るのだけれど、ぼくに

言わせればむしろ、ここでは人が死んでいる。ぼくは外出していた。あち

こちに病院を見つけた。ふらふらして、倒れ込んでしまう人を見た。人々

が周りに集まったので、ぼくはそれ以上関り合いにならずにすんだ。(p11)




ぼくは見ることを学んでいる。何が原因だかわからないけれど、すべて

のものが普段より深く、ぼくの中に入り込んでくる。いつもならそこで終

わりになるはずの場所にとどまってはいない。ぼくには、自分の知らな

かった内面があるのだ。すべてがいま、そこに流れ込んでいく。そこで

何が起こっているのか、ぼくにはわからない。(p14)




もう言っただろうか? ぼくは見ることを学んでいる。そう、始めるのだ。

いまはまだうまくできない。でも、時間をかけてがんばるつもりだ。たと

えば、どれほどたくさんの顔があるか、これまで意識したことはなかっ

た。たくさんの人がいる、でも顔はもっとたくさんある。誰もがいくつも顔

を持っているからだ。



一つの顔を何年も持ち続けている人たちがいる。もちろん顔は擦り切れ

て汚くなり、皺が寄って崩れ、旅行で使った手袋のように伸びきってしま

う。こうした人たちは節約家で単純だ。顔を取り替えないし、きれいにする

ことさえない。この顔で充分だ、と彼らは主張する。誰がその反証を示

せるだう?



しかしながら、本来はいろいろな顔を持っているのだから、他の顔をどう

しているかという疑問が生じるだろう。彼らはそれをとっておくのだ。そして

子どもたちにその顔を使わせようとする。ところが、彼らの飼い犬がその

顔を持って外に行ってしまうこともある。犬がつけちゃいけないなんてこと

があるだろうか? 顔は顔なのだから。(p15)



○困難を伴う自我の開放|森鴎外「舞姫」にみる生の哲学

○Carnevale di Venezia|新たに甦る有翼の獅子


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強迫観念と死の欲動
大量の死が生産される場所

 フランス軍の行進 プティ・パレ前 1916年


※「マルテの手記」 リルケ. 松永美穂(訳) 光文社古典新訳文庫 2014 p18-19


このすばらしい病院はとても古くて、クロヴィス王(⇒5世紀、フランク王国

メロヴィング朝の王)の時代にはもう、ここのベッドで死んでいく人たちがい

た。いまでは559人のベッドが死の床として使われている。もちろん工場の

ようなあり様だ。



このように大量の死が生産される場所では、個々の死はそれほどうまく

仕上がらない。しかし、それは大した問題ではない。量が多いせいなのだ。

うまく死に遂げるために手間をかている人など、今日いるだろうか?

誰もいない。じっくりと死ぬだけの経済力をまだ持っている金持ちでさえ、

怠惰で無頓着になり始めている。自分だけの死を死にたいという願いは、

どんどん稀になってきている。まだいくらかは独自の死というものが存在

するかもしれないが、やがては独自の生と同じくらい、独自の死も珍しく

なるだろう。なんてことだ、すべてがそこにある。人は生まれ、一つの人生

を見つける。レディメイドで、ただ身に着けるだけでいい。去ることを望む

にせよ、去っていかざるをえないにせよ、いまや、苦労する必要はない。

お客さま、これがあなたの死です、というわけだ。


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運命を受け入れるしか術がない
無抵抗者たち

文部省主催 出陣学徒壮行会 1943年10月21日
明治神宮外苑競技場


太平洋戦争の熾烈化とともに、1943(昭和18)年10月、文科系の学生に対して

(理科系学生は免除)、それまで兵役法で認められていた徴集延期の制度が

廃止され、20歳以上の学生たちは直ちに戦場に向かうことになりました。



学徒出陣は一般兵員の補充がたてまえでしたが、彼らの多くは実質的には

特攻隊要員に、ほかなりませんでした。



抵抗するなど許されるはずもなく戦地に赴いていった文科系学生には、

理科系学生にはない特徴がありました。それは、文学から哲学と思想を

学んだ彼らには表現する能力があるということでした。彼らの残した文章

は戦争の犠牲者たちや遂行者たちについての実態を後世に残します。



※法政大学の歴史|学徒出陣
※21世紀批評理論における4つのターン 2019.03
 大橋洋一教授退職記念特別講義
 東京大学文学部法文2号館2階1番大教室(本郷キャンパス)
 現代文芸論研究室



○Dear Kitty|ずっと誰よりも大切なキティへ

○平和と独立を守る防衛省|すべての国々、すべての方々に感謝の気持ちを


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自己崩壊の危機から個の分離
内面で成熟を達成する

パリ5区・スフロ通り(Rue Soufflot)、正面はパンテオン
リルケが住んだトゥリエ通り(Rue toullier)は、ここからパンテオン側に進んだ左側


※「マルテの手記」 リルケ. 松永美穂(訳) 光文社古典新訳文庫 2014


空気のあらゆる成分に、ぞっとするようなものが存在している。きみは透明な

ものと一緒にそれを吸い込む。するとそれはきみの中に定着して、硬くなり、

臓器のあいだで尖った幾何学的な形を取るのだ。なぜなら、処刑場や拷問

部屋、精神病院や手術室、晩秋の橋の下などで、苦しみや恐怖に関して起

こったことが、いまもしつこく残っているからだ。これらすべてが自己主張し、

あらゆる存在者に嫉妬しながら、自らの恐ろしい現実にしがみついている。

人はこうしたことの多くをできる限り忘れたいと願う。(p102)




いまや狩猟長は完全に死んでおり、しかも死んだのは彼だけではなかった。

心臓が貫かれたのだ。ぼくたちの心臓、一族の心臓が。ついに終わって

しまった。あの儀式はすなわち、戦場で兜を砕くような行為だったのだ。

「きょうではブリッゲ家の一員だったが、もはやそうではない」と、ぼくの

中で何かが言った。

ぼくは自分の心臓のことは考えなかった。そしてのちにそのことを思い

出したとき、はじめてはっきりと、自分の心臓はこういう場合は考慮の

対象にならないと悟った。ぼくのは個としての心臓だったのだ。ぼくの

心臓はすでに、最初から一度やり直そうとしていた。(p216)



※「マルテの手記」 リルケ. 松永美穂(訳) 光文社古典新訳文庫 2014
 言葉の内面で成熟すること 斎藤環 (精神科医・筑波大学教授) p364-382



○善すなわち美|自己内対話によって培われる無私の精神


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狂気と幻想
意識の内奥の自我を追求した詩人

フランスの詩人 ジェラール・ド・ネルヴァル(1808-1855年)


※「オーレリア」 ジェラール・ド・ネルヴァル. 野崎歓(訳) 第1部第1章


「夢」は第二の人生である。我々を目に見えない世界から隔てている象牙、

あるいは角(つの)の門を、私たちは身ぶるいせずには通り抜けることが

できなかった。眠りの最初の瞬間は死の似姿である。思考はどんよりと

麻痺したようになり、<自我>がいったいどの時点から、別のかたちで存在

を営み続けるのか、はっきりとゆうことはできない。漠とした地下世界が

徐々に照らし出され、夜闇(よやみ)のただなかから、重々しくじっと動か

ない蒼白の姿が浮かび上がってくる。それらは冥府に住まう者たちの姿

である。やがて情景が明らかになり、新たな光がそれらの奇妙な幻を

照らし、動き出させる。−−「霊」の世界がわれわれの前に開けるのだ。



※ネルヴァルと夢の書物 2019.03
  講師 野崎歓 先生 (東京大学教授)
  会場 東京大学本郷キャンパス 法文2号館1大教室
  塩川徹也先生文化功労者顕彰記念講演、野崎歓先生最終講義
  東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 フランス語フランス文学研究室


※ジェラール・ド・ネルヴァル(1808-1855年)
  フランスの詩人。ゲーテやホフマンなどドイツ文学のフランス語翻訳者
 として脚光を浴びる。その後、新聞の学芸欄(フイユトン:feuilleton、仏語)
 に記事を書く職業文筆家として活動。「東方紀行(1851)」や「火の娘(1854)」
 「オーレリア、あるいは夢と人生(1855)」などの作品を発表した。
  私生活では、女優ジェニー・コロンに夢中になるが破局。1941年以降は、
 精神を病み、1855年1月26日、パリ裏町の一室で鉄格子に紐をかけて
 首を吊った姿で発見された。



○絶望から美しさを見い出す|太宰治「人間失格」


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悪が習慣となっている場所では
善行ですら、かえって別の悪を生み出す

赤ちゃんポスト


※「忘れられた子どもたち」 宮本常一(著). 田村善次郎(編) 八坂書房 2015
 間引きと堕胎 ある改宗者の懺悔 p76-77


堺の話である。ある夜一人のキリシタン信徒が、岸べの舟のなかに捨てられた

子どもを見つけた。神父さんがこの子を養育していると、堺の信徒たちは、「神

父さんたちはそういうことはおやめになったがいい。人々が子どもをひきとって

もらえるという話を聞きますると、毎朝神父さんの家の前に子どもをおいてゆく

ことになるでございましょう。それも日々、8人や10人にはなりますでしょう。

とても養いきれるものではございませんから、何かの不幸がおこってまいります。

すると坊主たちは、バテレンは子どもを食うために養ったのだといいふらすで

ございましょう」といって、それをやめさせたという。



一つの悪が常習となっているところでは、ささやかな善行ですら、かえって別

の悪を生みだすもとになる場合が少なくないのである。



※宮本常一(みやもとつねいち、1907-1981年)
 民俗学者。日本各地を調査し、表立って語られることのなかった庶民
 の生き方を研究。武蔵野美術大学教授などを務める。著書に「民俗学
 への道」「日本人を考える」「忘れられた日本人」など。



○私たちの生涯|生と死の狭間にある「時」を歩む


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人の恨み妬みには
勝てない

島崎藤村の小説「破戒」の第一章を刻んだ文学碑
蓮華寺のモデルとなった安養山真宗寺(長野県飯山市)


※「破戒」 島崎藤村 第壱章 (一)


…半月程前、一人の男を供に連れて、下高井(現・長野県下高井郡)の地方から

出て来た大日向(おほひなた)といふ大尽(だいじん⇒お金持ち)、飯山病院へ

入院の為とあつて、暫時(しばらく)腰掛に泊つて居たことがある。入院は間も

なくであつた。もとより内証(ないしょう⇒暮らし向き)はよし、病室は第一等、

看護婦の肩に懸つて長い廊下を往つたり来たりするうちには、自然(おのづ)と

豪奢(ごうしゃ⇒贅沢で派手な振る舞い)が人の目にもついて、誰が嫉妬で噂

するともなく、「彼(あれ)は穢多(えた)だ」といふことになつた。忽(たちま)ち多く

の病室へ伝つて、患者は総立そうだち。「放逐(ほうちく⇒追放)して了(しま)へ、

今直ぐ、それが出来ないとあらば吾儕挙(われわれこぞ)って御免を蒙(こうむ)

る」と腕捲(うでまくり)して院長を脅(おびやか)すといふ騒動。いかに金尽(かね

ず)くでも、この人種の偏執(へんしゅう)には勝たれない。



○雪国の春|環境と生物の相互作用がもたらす風景

○降り積もる雪の果て|トンネルの先にある雪国

○島崎藤村 晩年の棲家 神奈川県大磯


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私を離さないで
実験動物 チンパンジーのトム

Collection: Chimp Portraits. Time: 2002. Date of birth: 196-.
Frank Noelker (an American Fine Art Photographer)


Tom was born in Africa. Taken from his family, he spent his first 30 years in

the laboratory. Tom arrived at LEMSIP on August 13, 1982 from the Buckshire

Corporation at about 15 years old. In his subsequent 15 years at LEMSIP,

"Ch-411" was knocked down over 369 times.



Tom was inoculated with HIV in 1984 and for the rest of his time at the lab he

was used mostly for vaccine research. Completely uncooperative in the lab,

he was even knocked down for cage changes.



After enduring some 56 punch liver biopsies, 1 open liver wedge biopsy, 3 lymph

node and 3 bone marrow biopsies, Tom gave up. Plagued constantly by intestinal

parasites, he often had diarrhea and no appetite. When he had some strength,

he banged constantly on his cage.




《ホームページ管理者による意訳》


アフリカで生まれたチンパンジーのトムは、家族から離され、最初の30年は実験室

で過ごしました。15歳くらいだったトムがBuckshire Corporation(実験動物を扱う

会社?)からLEMSIP(大学にある実験室?)に到着したのは1982年8月13日でした。

その後、LEMSIPの15年間で"Ch-411"(トムの識別番号のよう)は、369回以上も

knocked downされました(麻酔をかけられ意識を失った?)。



トムは1984年にHIV(エイズの原因となるウイルス)を接種され、研究室での残り

の時間は主にワクチン研究のために利用されました。トムは研究に協力的では

なかったため、檻(おり)からの出入りでさえ麻酔をかけられました。



56回のpunch liver biopsies(肝臓組織の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)、

1回のopen liver wedge biopsy(肝臓を開いて行う検査?)、3回のリンパ節検査

および3回の骨髄検査に耐えた後、トムは力尽きました。 いつも腸内寄生虫に

悩まされ、しばしば下痢をし、食欲はありませんでした。 まだ体力があった頃、

トムは絶えず檻を叩いていました。



※liver(リバー) … 肝臓
※biopsy(バイオプシー) … 生体組織の一部を採取して顕微鏡で調べる検査


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人の見残したものを見るようにせよ
自分の選んだ道をしっかり歩む

宮本常一(みやもと つねいち、1907-1981年)
民俗学者・武蔵野美術大学教授


日本全国をくまなく歩き調査した民俗学者、宮本常一(1907-1981年)。

1912(大正12)年、16歳だった宮本は故郷の山口県周防大島から大阪

に旅立ちます。父親の善十郎は息子にあてて10ヵ条を伝えます。



※「民俗学の旅」 宮本常一 講談社学術文庫 1993

(1)汽車に乗ったら窓から外をよく見よ、田や畑になにが植えられているか、

育ちがよいかわるいか、村の家は大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、

そういうこともよく見ることだ。駅へ着いたら人の乗り降りに注意せよ、

そしてどういう服装をしているかに気をつけよ。また、駅の荷置場にどう

いう荷がおかれているかよく見よ。そういうことで、その土地が富んでいる

か貧しいか、よく働くところか、そうでないところかよくわかる。



(2)村でも町でも新しくたずねていったところは、かならず高いところへ上

ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見下ろす

ようなことがあったら、お宮や森やお寺や目につくものをまず見、家のあ

り方や田畑の在り方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目を

引いたものがあったら、そこへかならず行って見ることだ。高いところで

よく見ておいたら、道に迷うことはほとんどない。



(3)金があったら、その土地の名物や料理は食べておくのがよい。その

土地の暮らしの高さがわかるものだ。



(4)時間とゆとりがあったら、できるだけ歩いて見ることだ。いろいろのこと

を教えられる。



(5)金というものはもうけるのはそんなに難しくない。しかし、使うのが難

しい。それだけは忘れぬように。



(6)わたしはおまえを思うように勉強させてやることができない。だから

おまえには何も注文しない。好きなようにやってくれ。しかし、身体は大

切にせよ。30歳までは、おまえを勘当したつもりでいる。しかし、30すぎ

たら親のあることを思い出せ。



(7)ただし、病気になったり、自分で解決のつかないようなことがあったら、

郷里へ戻ってこい。親はいつでも待っている。



(8)これからさきは、子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する

時代だ。そうしないと世の中はよくならぬ。



(9)自分でよいと思ったことはやって見よ、それで失敗したからといって、

親は責めはしない。



(10)人の見のこしたものを見るようにせよ。そのなかにいつも大事なものが

あるはずだ。あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。



※文化資源学研究室 木下直之先生、渡辺裕先生 最終対談
 「ふたりのなんだか気になる風景」 2019.03
 東京大学本郷キャンパス法文2号館一番大教室

※木下直之先生が東京大学に着任(1997年4月)して最初の授業で
 配布したプリントが宮本常一先生の「10ヶ条の教訓」だったそうです。


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外から知る
日本の現代社会・宗教観

特別講座「留学生のための日本の現代社会」ポスター


掲示板を何気なく見ていたら、留学生・外国人研究員を対象とした日本について

学ぶ講座案内に目が留まりました。日本の現代社会の典型的特徴として、ルー

ス・ベネディクトの「菊と刀」や中根千枝先生の「タテ社会の人間関係」が取り上

げられているようで、はっとさせられます。私は日本人ですが受講したかった…



○「留学生のための日本の現代社会」
  東京大学大学院人文社会系研究科・文学部
  国際交流室 日本語教室 特別講座シリーズ

  本講義では、5つのキーワードから日本の現代社会を描き出します。複雑な
  現代社会を論じるのはもちろん容易ではありませんが、日本社会の典型的
  特徴とされるトピックを取り上げ、現代ではどのようであるかを皆さんと一緒
  に考えてみたいと思います。


  第1回 「日本社会論」−「菊と刀」を中心に
  第2回 仕事−「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を支えた日本的経営
  第3回 選抜システム−学歴社会と就活模様
  第4回 コミュニケーション−タテ社会の人間関係
  第5回 文化−心理主義化する社会と自己啓発




○「留学生のための日本の宗教」
  東京大学大学院人文社会系研究科・文学部
  国際交流室 日本語教室 特別講座シリーズ

  本講義は宗教を切り口に日本について考えることを目的とします。同時に、
  日本の事例を通じて宗教に対する視野を広げることも目指します。テーマ
  には、なるべく身近なこと、話題のものを選びました。それらの成りたちや
  由来について、宗教学・宗教史学の最新の成果に基づきながら解説して
  いきます。この講義が受講者の方がたにとって、異文化に迫るヒントに
  なるとともに、自文化を見直すチャンスにもなれば何よりです。


  第1回 初詣の始まり−暦・鉄道・年中行事
  第2回 切支丹・耶蘇教・天主教−日本におけるキリスト教表象の分裂と拡散
  第3回 天皇と宗教、天皇の宗教、天皇は宗教?
  第4回 近代日本と「宗教」−信教の自由と政教分離
  第5回 近代日本における戦争死者慰霊のかたち



○多様な視点から始まる自己への洞察


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中年白人層に急増している
絶望死

 鉄鋼の街として栄えてきたピッツバーグ(Pittsburgh)
ペンシルベニア州


2015年、ノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートン先生(プリンストン

大学教授)と妻のアン・ケース先生(プリンストン大学教授)の共著論文による

と、アメリカにおいて、低学歴の白人中年層(45〜54歳)の死亡率が急上昇し

ているといいます。



その主な原因は、薬物依存やアルコール中毒、自殺の広がりだといい、

背景には社会からの疎外感があり、トランプ政権の誕生にもつながった

とされます。



※ノーベルメディアとノーベル経済学賞受賞者が贈る未来のリーダー達へのメッセージ
 ANGUS DEATON 特別講演 2019.03
 〜不平等、絶望による死、資本主義の未来〜
 Inequality,deaths of despair,and the future of capitalism
 会場 東京大学本郷キャンパス 国際学術総合研究棟 地下第5教室
 共催 東京大学大学院経済学研究科


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発展の副産物として生まれる
格差

導入が進んでいるセルフレジ


※「大脱出 健康、お金、格差の起源」 A・ディートン, 松本裕(訳) みすず書房 2014
 序章 本書で語ること p14, 17


今、世界は最高に暮らしやすい。豊かな人々の数か増え、極端に貧しい人々

の数は減っている。寿命は長くなったし、親が子どもの四人に一人を喪(うしな)

うのがあたりまえという時代は終わった。それでもいまだに何百万人もが、

極貧と早すぎる死の恐怖を経験している。この世は、ずいぶんと不公平だ。

格差はしばしば、発展の副産物として生まれる。(p14)




…人類の発展に関するすばらしい成果の数々の陰には、非の打ちどころが

なかったとされるものにでさえ、格差という遺物が隠れている。18世紀から19

世紀にかけてイギリスで始まった産業革命は、何億もの人々を物質的貧困

から救うに至る経済成長のきっかけとなった。だがこの産業革命には、歴史

家たちが「大分岐」と呼ぶ側面がある。イギリスにやや遅れてヨーロッパ北西

部と北米も著しい発展を遂げ、他の国々を引き離した。その結果欧米諸国と

その他諸国の間に築かれた巨大な溝は、今日に至るまで埋められていない。

今日の世界的格差は、実はその大半が近代の経済発展によって引き起こさ

れたものだ。(p17)


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富の極端な集中は
民主主義と成長を阻害する



※「大脱出 健康、お金、格差の起源」 A・ディートン, 松本裕(訳) みすず書房 2014
 あとがき これからの世界 p348


経済成長は、貧困と物質的困窮状態から脱出するための原動力だ。にもかかわらず、

富裕国では成長が低迷している。時代を10年ごとに区切って見ると、近年の成長率は

10年ごとに前の10年より低いことがわかる。



世界のほぼ全域で、成長の低迷は格差の拡大とともに起こっている。アメリカの場合、

現在見られる所得と富の極端な格差は、過去100年以上の間には見られなかった。

富の極端な集中は民主主義と成長を阻害し、成長を可能にする創造的破壊を抑え

こんでしまうかもしれない。このような格差は、先に脱出した者が自分たちの通って

きた脱出経路を塞ぐ行為を推奨してしまう。



○循環型社会の基盤にあるもの|強さばかりでなく、弱さに目を向ける


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階層間格差の拡大
階層固定化の進展



日本社会は、戦後数十年間にわたり、一貫して平等化を進展させてきた

世界でもまれな存在であった。ジニ係数や流動性指数などの諸指標は、

1980年代初め頃まで継続して平等化が進展してきたことを示している。

しかし、80年代半ばを境に、そのベクトルは逆転する。階層(⇒社会的

地位、身分)間格差の拡大と世代間の階層固定化が進み始めたのである。



※格差社会と新自由主義('11)
 6 階層間格差の拡大 p96
 岩永雅也 先生 放送大学教授



○財政健全化への取組み|失われた25年から学んだこと


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中高年のひきこもり
61万人



※中高年ひきこもり61万人 初の全国調査、若年層上回る
 編集委員・清川卓史、田渕紫織 2019年3月29日 朝日新聞 (部分)


40〜64歳のひきこもり状態の人が全国に61・3万人いる。内閣府は29日、

そんな推計を公表した。「中高年ひきこもり」の全国規模の数が明らかになる

のは初めて。従来ひきこもりは青少年・若年期の問題と考えられてきたが、

その長期化・高年齢化が課題となる状況が浮き彫りとなった。



※ひきこもりに詳しい精神科医の斎藤環・筑波大教授の話

 中高年のひきこもりが社会問題化してこなかったのは、国による調査が

なされなかった影響が大きい。全国の自治体や研究者から、ひきこもりの

半数が40歳以上という調査結果が次々と出ていたにもかかわらず、国は

放置してきた。こうした国の姿勢は「ひきこもりは青少年の問題」という先入

観を広げることにもつながった。その責任は重い。今回の調査をきっかけに、

中高年の当事者のニーズを丁寧にくみ取った就労支援に加え、当事者や

経験者らが集まって緩やかに経験を共有できる居場所を全国につくることが

必要だ。



○イノベーションは内生的・自発的に生まれる|健全な経営を目指す会社


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半分は隠蔽されて黙殺される
悪魔をうちに含む神の必要性

シヴァ神の三面胸像
世界遺産 エレファンタ石窟群 (Elephanta Cave)|ムンバイ


※「デーミアン」 ヘッセ. 酒寄進一(訳) 光文社古典新訳文庫 2017
  第3章 悪人 p95-96


旧約と新約に登場する神はすばらしいけど、それは本来あるべき姿じゃない。

神は善なる者で、気高く、父のような存在、美しくかつ崇高、感情に訴える

もの─たしかにそのとおりだ。でも世界は別のものからも成りたっている。

そっちはなにもかも悪魔のせいにされている。そして世界のこっち側では、

その半分は隠蔽(いんぺい)されて、黙殺される。



…讃えるのなら、この世界まるごとを讃えるべきだ。すべてを神聖なものと

見なさなくちゃ。意図的に一部を切り離して、公に認められた半分しか崇め

ないなんておかしいよ。神だけでなく悪魔も崇拝しなくちゃ。そうすべきだと

思う。さもなければ、悪魔をうちに含む神を創りださなくちゃ。そういう神の

前なら、この世のごくあたりまえのことに目をつぶらなくてもすむようになる。


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現代社会の暗部
都合の良い所ばかり強調し、不都合は隠蔽する

本質的には、排除の構造を持つ人間社会


○日本人の美徳を強調すればするほど、けがれた側面を闇に押しやる

日本には四季があって、自然が豊かで美しい。街にはゴミがなくきれいだ。

日本人は礼儀正しく親切で、他者への思いやりがある。犯罪が少なく、

落し物は戻ってくることが多い。勤勉で時間を守り、技術力が高い。



よく言われる日本の美しい側面であり、私自身、実際にそうだと感じます。

しかし、美しい側面を強調するればするほど、けがれた側面は闇に押し

やられ、意識されなく、また意識したくなくなり、嫌悪の対象として表だって

話題にすることは避けられてきたように思えます。



○地域間偏見
 歴史があり、権威があり、山の手に住んでいる。それに比べてお前は…


京都では、平安京内であった洛中(らくちゅう)と、その外である洛外(らくがい)

とでは、現在でも地域間偏見の意識があるといいます(※1)。



私の住む横浜は「オープン・ヨコハマ」を標榜していますが、市内において

地域間偏見の意識が内心にあると感じる場面に少なからず出会いました。

それでも、横浜は開港から150年ほどと都市の歴史が浅く(関内はかつて

寒村だった)、都市の発展と共に多くの人々が流入してきたことなどから、

地域間偏見の意識は比較的薄いように感じます。



○社会を支えているにも関わらず、感謝されず、忌み嫌われる

職業に目を向けてみると、食肉処理業は、食肉を供給するうえで欠くことので

きない大切な仕事ですが、この仕事に対する差別や偏見がいまだに根強く残

っているといいます(※2)。かつて食肉処理や汚物処理は穢多(えた)・非人(ひ

にん)と呼ばれる人々が担い、「穢(けが)れ多い」・「人に非(あら)ず」という

名称からも読みとれるように、忌み嫌われる存在だったようです(※3)。



エネルギー源の一つである原子力発電。福島原発事故以前から原発労働者

は特殊な職業であり、賤(いや)しい職業とみなされてきました。原発の作業は、

被爆する危険性のある作業であり、特殊な労働者が必要でした。私たちの暮

らしは、こうした人たちに支えられてきましたが、作業員は自らの身体を危険

に晒しながらも、社会的に認知されることもなく、感謝もされず、逆に嫌われる

存在でした(※4)。



○序列意識が次世代を犠牲にする

日本は秩序と階層的な上下関係を重視してきといわれます(※5)。序列の一

つである「年功序列」と「能力」の関係をみた場合、日本は常に年功序列に

圧倒的な比重が置かれ、能力については、「働き者」とか「なまけ者」という

ように、個人の努力差には注目しますが、「誰でもやればできるんだ」という

能力平等観が非常に根強く存在していたとされます(※6)。



私たちの社会システムは、年長者ほど能力も見識も高く、地位も報酬も高い、

という前提の上に成り立っています(※7)。人口が増加傾向にあり、ピラミッド

型の人口構成ならば有効なシステムだと思えますが、今日の日本において、

「年長者ほど能力も見識も高い」という前提は、成り立たなくなっているように

思えます。



年功序列的意識は、見方を変えれば次世代に犠牲を強いることでもあり、

その結果が、少子化の一要因となっているのではないでしょうか。



※1 京都ぎらい 井上章一 朝日新書 2015
※2 東京都中央卸売市場 偏見・差別について
※3 生と死の民俗学 2016.07
    板橋春夫 先生 新潟県立歴史博物館参事
    放送大学文京学習センター
※4 21世紀批評理論における4つのターン 2019.03
    大橋洋一教授退職記念特別講義
    東京大学文学部法文2号館2階1番大教室(本郷キャンパス)
    東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 現代文芸論研究室
※4 原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録 堀江邦夫 現代書館 2011
※4 映画「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」 1985 森崎東監督
※5 菊と刀 ルース ベネディクト. 角田安正(訳) 光文社古典新訳文庫 2008
※6 タテ社会の人間関係 中根千枝 講談社現代新書 1967
※7 劣化するオッサン社会の処方箋 なせ一流は三流に牛耳られるのか
    山口周 光文社新書 2018


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文明が退化し
家畜化される人間



※「タイム・マシン」 H・G・ウェルズ 1895年 あらすじ Wikipediaより(一部変更)


時間旅行者が到達した紀元802701年の未来世界は、エロイ(Eloi)と自称する

単一の人種が幸福に暮らす、平和で牧歌的な桃源郷の様相を呈していた。

エロイは身の丈約4フィート(約120センチ)に、ピンク色の肌と華奢な体格、

巻き毛と小さな耳と口、大きな目を持つ種族で、男女共に非常によく似た女性

的な穏やかな姿をしている。



エロイは高く穏やかな声で、未知の言語をしゃべるが、知能的には退化して

幼児のようであり、その生活にはいさかいも争いもないように見える。時間旅行

者は、川でおぼれかけたエロイの女性ウィーナを助けて仲良くなり、彼女を

通して、あるいは自分自身の様々な体験から、次第にこの未来世界の真実を

知る。



エロイのユートピアは偽りの楽園であった。時間旅行者は、現代(彼自身の時代)

の階級制度が持続した結果、人類の種族が2種に分岐した事を知る。裕福な

有閑階級は無能で知性に欠けたエロイへと進化した。抑圧された労働階級は

地下に追いやられ、最初はエロイに支配されて彼らの生活を支えるために機械

を操作して生産労働に従事していたが、しだいに地下の暗黒世界に適応し、夜

の闇に乗じて地上に出ては、知的にも肉体的にも衰えたエロイを捕らえて食肉

とする、アルビノの類人猿を思わせる獰猛な食人種族モーロック(Morlock)へと

進化したのである。


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清らかな世界は
私たちの住む穢れた世界にほかならない

山越阿弥陀図(やまごしあみだず) 鎌倉時代・13世紀
昭和32年国宝指定|京都・禅林寺|東京国立博物館 国宝室 2019.03


阿弥陀如来(あみだにょらい)信仰は、来世に、苦悩の多いこの世ではなく、

阿弥陀如来の住む悩みや苦しみのない世界(西方極楽浄土)に生まれよう

とするものです。中国では、阿弥陀信仰の図といえば、極楽浄土の様子を

描いたものが中心でしたが、日本では、阿弥陀如来が雲に乗り、観音菩薩

(かんのんぼさつ)と勢至菩薩(せいしぼさつ)等を従えて極楽浄土から臨終

の人のところへ迎えにやって来る図(来迎図:らいごうず)が主流となりました。



しかし、この図では、通常の極楽浄土図や来迎図と異なり、日本のどこかに

ありそうな山水風景が描かれ、中央の阿弥陀如来が迎えに来たことを示す

雲もありません。あたかも、山のすぐ向こうから突如、阿弥陀如来が現れた

ようです。



また、画面左上に「阿」という大日如来(だいにちにょらい)を象徴する梵字

(ぼんじ)があることから、ここに描かれた阿弥陀如来は大日如来と同体で

あるということが暗示されていると考えられます。



これらによって、この図の世界は阿弥陀如来の浄土であり、同時に大日

如来の浄土でもあり、それは私たちの住む穢れたこの国土にほかならない

とする密教的な浄土観により本図が描かれたことがわかります。



※担当研究員:沖松健次郎



○多様な視点から始まる自己への洞察

○本物の作品で日本の文化史がたどれる東京国立博物館


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人はごくたまに
永遠の命を確信することがある

Ilkley Moor in West Yorkshire, England


※「秘密の花園」 バーネット. 土屋京子(訳) 光文社古典新訳文庫 2007
 第20章 「ずっとずっと生きるんだ!」、第21章 ベン・ウェザースタッフ p340-341


「ぼくは元気になる! ぼくは元気になるぞ!」コリンは声をあげた。「メアリ!

ディコン! ぼくは元気になる! そして、いつまでもずっとずっと生きるんだ!」



この世に生きることの不思議というべきか、人生はごくたまに、自分がいつま

でも永遠に生きられると確信できる瞬間が訪れる。

たとえば、夜明け前の穏やかで厳(おごそ)かなひととき。ひとり目ざめて外に

立ち、ほのかに暗い天空を仰ぎ見るうちに、地平から曙光(しょこう)がさしはじ

め、人知の及ばぬ変化が顕(あらわ)れ、やがて東方が呱呱(ここ⇒生まれて

すぐの泣き声)の声を発したかと思われる一瞬を経て、昇りはじめた太陽の

不可知(ふかち⇒人知では知ることができない)にして不変の荘厳に心臓さえ

鼓動を忘れる─何万年ものあいだ毎朝くりかえされてきた神秘ではあるが、

そんな一瞬、人は永遠の命を確信することがある。



○人類から遠く離れた孤独の中に住む 世界の本質


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寄せては返す波の音
存在することの喜び

相模湾 御幸の浜 (神奈川県小田原市)

※「孤独な散歩者の夢想」 ジャン=ジャック・ルソー, 永田千奈(訳)
 光文社古典新訳文庫 2012 第五の散歩


寄せては返す波の音、いつまでも続き、ときに大きく聞こえてくる波の音、

夢想が心のざわめきを消し、空っぽになった内面を満たすように、水の

音と眺めが私の耳と目に休みなく流れてくる、そうしていると、わざわざ

頭を使って考えなくても、ただこうしているだで存在することの喜びを感

じることができるのだ。



○最も進んでいないイノベーション 人間に関する知識

○生命の跳躍|海洋を統合的に理解する

○城下町・宿場町として栄えた小田原


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参  考  情  報


○Frank Noelker

○島崎藤村 破戒 - 青空文庫

○魅力的なフリー画像 - Pixabay

○Wikipedia

○すばらしい新世界 オルダス・ハクスリー 黒原敏行(訳)
 光文社古典新訳文庫 2013

○タイムマシン ウェルズ, 池央耿(訳) 光文社古典新訳文庫 2012

○映画「アイランド(The Island)」 アメリカ 2005

○人間の条件 ハンナ・アレント 志水速雄(訳) ちくま学芸文庫 1994

○車輪の下 ヘッセ. 松永美穂(訳) 光文社古典新訳文庫 2007

○デーミアン ヘッセ. 酒寄進一(訳) 光文社古典新訳文庫 2017

○ダロウェイ夫人 ウルフ 土屋政雄(訳) 光文社古典新訳文庫 2010

○プークが丘の妖精パック キプリング 金原瑞人・三辺律子(訳)
 光文社古典新訳文庫 2007

○ナショナリズムの明暗―漱石・キプリング・タゴール 大沢吉博
 東京大学出版会 1982

○京都ぎらい 井上章一 朝日新書 2015

○パンセ(上・中・下) パスカル. 塩川徹也(訳) 岩波文庫 2015

○ラ・ロシュフコー箴言集 二宮フサ(訳) 岩波文庫 赤510-1 1989

○運と気まぐれに支配される人たち―ラ・ロシュフコー箴言集
 吉川浩(訳) 角川文庫 1999

○マルテの手記 リルケ. 松永美穂(訳) 光文社古典新訳文庫 2014

○忘れられた子どもたち 宮本常一(著). 田村善次郎(編) 八坂書房 2015

○民俗学の旅 宮本常一 講談社学術文庫 1993

○宮本常一が見た日本 佐野眞一 ちくま文庫 2010

○世の途中から隠されていること―近代日本の記憶 木下直之 晶文社 2002

○川釣り 井伏鱒二 岩波文庫 1990

○秘密の花園 バーネット. 土屋京子(訳) 光文社古典新訳文庫 2007

○幸福な王子/柘榴の家 ワイルド. 小尾芙佐(訳) 光文社古典新訳文庫 2017

○黄金の驢馬 アープレーイユス. 呉茂一(訳). 国原吉之助(訳) 岩波文庫 2013

○新生 ダンテ. 平川祐弘(訳) 河出文庫 2015

○塩川徹也先生文化功労者顕彰記念講演、野崎歓先生最終講義 2019.03
 ・仏文でパスカルを〈勉強〉すること
  塩川徹也 先生 (東京大学名誉教授)
 ・ネルヴァルと夢の書物
  野崎歓 先生 (東京大学教授)
 会場 東京大学本郷キャンパス 法文2号館1大教室
 東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 フランス語フランス文学研究室

○文化資源学研究室 木下直之先生、渡辺裕先生 最終対談
 「ふたりのなんだか気になる風景」 2019.03
 東京大学本郷キャンパス法文2号館一番大教室

○ノーベルメディアとノーベル経済学賞受賞者が贈る未来のリーダー達へのメッセージ
 ANGUS DEATON 特別講演 2019.03
 〜不平等、絶望による死、資本主義の未来〜
 Inequality,deaths of despair,and the future of capitalism
 会場 東京大学本郷キャンパス 国際学術総合研究棟 地下第5教室
 共催 東京大学大学院経済学研究科

○大脱出 健康、お金、格差の起源 A・ディートン, 松本裕(訳) みすず書房 2014

○共同研究「ブラフマニズムとヒンドゥイズム― 南アジアの社会と宗教の
 連続性と非連続性」 第6回シンポジウム「古代・中世インドの王権と宗教」

○21世紀批評理論における4つのターン(回転) 2019.03
 大橋洋一教授退職記念特別講義
 東京大学文学部法文2号館2階1番大教室(本郷キャンパス)
 東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 現代文芸論研究室
 @動物 A認知 Bアフェクト Cエコロジー

○Emotion VS Affect
 Emotionはシステム、Affectは脱システム
 Emotionはシステムである。たとえば色の分類と区分がシステム化
 されているように。伝統的な感情分類。Affectはシステム化されて
 いない。分類から外れるもの。無定形なもの。いわく言い難いもの。
 Fredric Jameson,The Antinomies of Realism(Verso,2013)
 ChapterU The Twin sources of Realism: Affect, or the Body's
 Present pp,27-44

○アフォーダンス(affordance)
 環境が動物に対して与える「意味」のこと。アメリカの知覚心理
 学者ジェームズ・J・ギブソン(1904-1979年)による造語。生態
 光学、生態心理学の基底的概念。「与える、提供する」という
 意味の英語「afford」から造られた。(Wikipedia)

○晩年のスタイル エドワード W.サイード. 大橋洋一(訳) 岩波書店 2007

○新版 文学とは何か―現代批評理論への招待 テリー・イーグルトン
 大橋洋一(訳) 岩波書店 1997

○新文学入門―T・イーグルトン『文学とは何か』を読む 大橋洋一
 岩波セミナーブックス 1995

○現代文芸論連休室論集「れにくさ」
 大橋洋一教授退職記念号 第9号 2019
 東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 現代文芸論研究室編

○三人姉妹 チェーホフ
 ある神学校で、先生が作文に「チェプパー」と書いたら、生徒が「レニクサ」
 と読んだんだって。ロシア語をラテン語だと思ったんだね…。なんとも可笑
 しいな。(チェプパー…ロシア語で「ばかげたこと」「ナンセンス」)の意味。

○アルジャーノンに花束を〔新版〕 ダニエル・キイス. 小尾芙佐(訳)
 ハヤカワ文庫NV 2015

○わだつみのこえ消えることなく―回天特攻隊員の手記 和田稔 角川文庫 1995

○中高年ひきこもり61万人 初の全国調査、若年層上回る
 編集委員・清川卓史、田渕紫織 2019年3月29日 朝日新聞

○特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流―日本美を伝える―」
 東京国立博物館 2019年3月5日〜4月29日

○映画「私を離さないで」(Never Let Me Go) 2010 イギリス

○映画「ストップロス」 2008 アメリカ

○映画「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」 1985 森崎東監督

○映画「蜘蛛巣城(くものすじょう)」 1957 黒澤明監督、三船敏郎主演

○マクベス シェイクスピア, 安西徹雄(訳) 光文社古典新訳文庫 2008

○うなぎの「うな子」「わたしを養って」 2016 
 鹿児島県志布志(しぶし)市 ふるさと納税PR動画

○動物を追う、ゆえに私は〈動物で〉ある ジャック・デリダ.
 マリ=ルイーズ・マレ(編集). 鵜飼哲(訳) 筑摩書房 2014


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