組織の<重さ>


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1.はじめに

日経新聞に「組織の<重さ>を考える」
というタイトルで一橋大学準教授 加藤俊彦氏の
文章が掲載されていました。

感覚的には私も感じているし、私が経験した事も
事例としてあてはまるではないかと思っています。

ここでは、私の主観や事例はいれず、
記載された文章を抜粋して記載します。

原文は、
 「日経新聞」 
 「やさしい経済学−経営学のフロンティア」
 「組織の<重さ>を考える」
というタイトルで、2008年10月18日より
8回に渡り掲載されました。

2.組織の<重さ>を考える

1.はじめに

 1)「中期計画は実際の現場では役に立たない」
 2)「事業部長は大まかな方針を打ち出せばよく、
   製品市場での具体的な方策は課長以下で考えるべきだ」
 3)「組織での公式的な関係より、個人的なつながりの方が
    仕事を進める上で必要な情報をより多く得られる」

 上記のような状況は事業活動を進める上で、
 ほぼ間違いなく望ましくない状況が生じている。


2.調査の前提

 1)日本の大手企業を対象に隔年で大規模な調査を実施
 2)目的は変動する製品市場に向けて、日本企業が
   どう対応しているのかを考察すること

 3)複数の企業から得られた内部データに基づき、
   体系的に検討した。
 4)調査は、企業全体ではなく一般的な事業部に相当する
   「ビシネス・ユニット」を単位としている。


3.組織の<重さ>とは

 これまでの分析から製品市場への適応を妨げる組織特性が
 明らかになってきた。このような特性は、事業活動から
 みた組織の劣化の度合いを示すもので、「組織の<重さ>」
 と呼んでいる。

「組織の<重さ>」とは、新たな方策を立てて、一体となって
 行動しようとすると、多大な労力がかかったり、結局なにも
 変わらなかったりするような組織の状況である。


4.組織の<重さ>を構成する4要素

 1)過剰な「和」志向
 2)内向きの合意形成
 3)本来負うべき責任を他人や組織自体に転換する
   「フリーライド」
 4)経営リテラシー(基本的な能力)の不足


5.「組織の<重さ>」の問題

 「組織の<重さ>」は経営上の問題は成果に悪影響を与える。
  直接的な影響は、組織内部での調整活動の増大である。
 (→調整比率:根回し)


6.調整比率の調査結果(2006年度)

 <軽い>組織・上位10%での調整比率 29.4%
 <重さ>組織・上位10%での調整比率 42.3%

 <重さ>組織は、<軽い>組織と比べて、約4割増の
 比率の時間を組織内部の調整に割いているということになる。

 あるプロジェクトが200日かかる場合、<軽い>組織まで
 調整比率を下げられれば、約2ヶ月削減できることになる。

 製品市場で激しい競争が展開されているとするならば、
 この違いは無視できない。


7.調整比率と利益率の関係

  緩やかな負の相関関係しかみられない。
  しかしながら、組織が抱える<重さ>は、収益性に対しても
  後に大きな影響を与えるのは間違いないだろう。


8.組織構造要因

 1)組織文化

  組織文化に関した調査項目のうち、所属企業に対する構成員
  の愛着という点では、組織文化は、組織の<重さ>を軽減する
  ように機能する。

  その一方、組織文化が複雑に組織内に入り込めば込むほど、
  組織の<重さ>は増大する。
 (例:新たに加わった人がその組織固有のルールを何年も時間
    をかけて費やさなければならない)


 2)計画

  事前に立てられた戦略に関わる計画が、日常業務で参照
  される程度を調べた結果、戦略計画が参照させれるほど、
  組織は<軽く>なる傾向がみられた。

  計画という手段の有用さではなく、計画の使われ方に意味
  があることを示しているといえるだろう。

  組織文化と計画の分析結果からは、組織の行動指針は
  できるだけ明快であるのが望ましいといえる。逆に、
  複雑化した暗黙のルールが重用され、明文化された
  行動指針が警視されがちな組織では、一体的な活動が
  妨げられ、製品市場への適用が難しくなる。



 3)組織の階層(ヒエラルキー)

   階層の高さに相当する尺度として「ルート距離」という指標を
   用いている。「ルート距離」とは、調査対象組織のトップで
   あるビジネス・ユニット長(事業部長に相当)と回答者が
   コミニュケーションをとる際に、その間に介在する人の数。

   組織のトップと中下位層との距離が開けば開くほど、組織
   は<重く>なる。 

   分析の結果、各階層の影響力が大きいほど、組織の重さは
   軽減される。

   <軽い>組織ではすべての階層で、人々は十分な影響力を
   有していると感じながら、いきいきと仕事をしている。
   それに対して<重い>組織ではトップをはじめとする上層部
   が十分な影響力を行使できないばかりか、現場に近づくほど、
   ある種の無力感が生じていることが調査結果からうかがえる。

   これらの点から、本質的な「フラット化」を実現するには、
   単に階層数を減らすだけではなく、組織の中下位層が
   中核的な業務活動に参画する感覚を持てることが重要
   であることがわかる。



 4)権限関係に沿った「タテ」と権限関係のない
   「ヨコ・ななめ」の組織内部でのコミュニケーション


  (1)タテのコミュニケーション

   a.組織階層の上から下への情報の流れと、下から上への情報
    の流れは、基本的に連動しており、これらの流れが活発で
    あるほど、組織の<重さ>は軽くなる。

    トップダウンでもなければ、ボトムアップでもなく、組織の上下
    間での双方向的なやりとりが、戦略的に事業活動を進める上で
    重要である。

   b.戦略に関する情報は、非公式的なルートを使って流れる度合い
    が高いほど、組織は<重く>なる。

  組織内部でのコミュニケーションに関する分析結果からは、
  事業活動における公式ルートの重要さが明らかになっている。

  非公式ルートが多用されるのは、公式ルートが十分機能して
  いないからであり、非公式ルートはあきまで補完的に用いられ
  るべきものだといえる。



9.リーダーシップ

 1)リーダーシップの3要素

  (1)タスク(仕事・業績)指向性
  (2)人間関係指向性
  (3)対外影響力

  ・一般的に「タスク(仕事・業績)指向性」、「人間関係指向性」
   はいずれも高いことが望ましいと考えられている。
  ・「対外影響力」が高いほどその組織で意図されている事は
   実現しやすい。
   また、部下に対するリーダーシップが発揮できると考えられ
   ている。

  調査の結果、ビシネスユニット長がリーダーシップを発揮する
  上で重要なのは、具体的な戦略の発信とその実行に関わる
  行動だといえる。

  部下を思いやるなどの人間関係上の配慮は、意味がある
  行動であるものの、それだけでは足りない。

  また、抽象的な理念を声高に叫んでも、具体策を部下に
  丸投げしているようでは、部下の指示は得られない。

  現代の日本企業で求められているのは、有効な方策を
  明確に提示し、それを実現できる「戦略的リーダーシップ」
  である。


10.組織規模の影響

  組織の規模が大きくなると、様々な要因に悪い影響を与え、
  ひいては組織の<重さ>を増やしてしまう。
  だからといって組織の規模を小さくすることによって、すべて
  を解消できるわけではない。


11.総 括

  よりよい事業組織を作る上での規模以外の主なポイント

  1)明文化されないルールを過度に発達させない
  2)戦略計画を現場で使われるものにする
  3)組織上の公式的な関係を重視し、非公式な関係に
    頼りすぎない。
  4)組織のトップは実行可能な具体策を提示する
  5)その方策は上から発信するだけでなく、上下間で
    議論を通じて策定・共有する。

  一言でまとめると、

  望ましい事業組織では、コンパクトでシンプルな構造を
  持ち、議論を通じて形成された明確な方針が共有されて
  いるといえる。